先生みたいだった

その人は1つ下の学年だけど、浪人で入ってきたので実は同い年だった。誘われて、学生のときに一緒にバンドを組むことになった。他にベースとドラムがいた。私はそれまでにも音楽を聴いてはいたけど、だいぶかたよっていたしあまり詳しくもなかった。それに気づいたのか、その人は私に「これを聴いておいて」と、やたらとCDやカセットテープに入った音源を貸してくれた。どっちかというと「聴きなさい」っていう勢いだった。私はとりあえず受け取って、ふーん、こういうバンドがイギリスにあるんだねえ、ぐらいの感じで聴いていた。

バンドでもその人がリーダー格で、演奏する曲を決めていく。そもそもこのバンドを始めようとしたのは、イギリスのTHE SUNDAYSというバンドのコピーがしたい、ということだったと思う。このバンドが女性ボーカルなので私が誘われたのだった。もちろん知らないバンドで、このアルバムのこれとこれを歌えるようにしといて、と言われたような気がする。私ははいはい、と練習した。他にもStrawberrySwitchblade、メリー・ホプキン、プリミティブズ、LUSH、PaleSaintsなどの曲をコピーした。有名なミュージシャンも、一般に広く知れ渡っているわけではないバンドもいろいろあったと思うが、私はどれも全く知らなくて。ただ言われるままに聴いたり歌ったりするだけ。でも、そういえば歌いやすかったような気がするから、私の声には向いていたのかもしれない。

そうやって少しずつ聴く音楽が増えていって、そうすると自分の好みがわかってきた。こういうのは好きじゃないとか、こっちのバンドは大好きだとか。アルバムをすすめてくれるその人を先生みたいだなーと思っていた。

バンドが解散した後も、私はしばらくその人に頼っていた。2~3年に1度くらい連絡して「今、私にすすめたい音楽を10曲ぐらい教えてよ」って言う。そうすると、カセットテープやMDに入った音源と、曲名と演奏者、さらには曲ごとの解説文が届く。1本に12曲ぐらい入っている。これ、いちいち録音するだけでも相当面倒くさいし、解説まで書いてあって。それを当然のことのように私はまた、ふーん、こういうのがあるんだねえ、って感じで聴いていた。

今さら、自分の図々しさに驚く。この機会に今、また聴きなおします。

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