入門歯科保険診療-カルテの書き方- 「経過記録とSOAP」
歯科の保険診療のABCを解説する不定期連載です。カルテの記載方法、カルテメーカーでの入力方法などを解説していきます。研修医の先生や、新規、個別指導を控えた先生の参考になればと思います。
経過記録とSOAP
前回はPOMRの3つのパート(基本データ、問題リスト、初期計画)について解説しました。今回は最後のパートの「経過記録」について解説していきます。やっとSOAP形式が出てきますよ。
■経過記録の構造
経過記録は、初期計画あるいは修正された計画に沿って実行された結果を日々記録したものです。記録はSOAP形式に従い、「問題」ごとに切り分けて記録していきます。
2023.5.12
#1 S ーーーー
O ーーーー
A ーーーー
P ーーーー
#2 S ーーーー
O ーーーー
A ーーーー
P ーーーー
2023.5.19
#2 S ーーーー
O ーーーー
A ーーーー
P ーーーー
#3 S ーーーー
O ーーーー
A ーーーー
P ーーーー
「#1」が問題の番号です。前回の「問題リスト」で問題ごとに割り振った番号です。
SOAPという形式を意識しないのであれば、これが通常のカルテと呼ばれる部分です。
■SOAP形式
やっとでてきました!SOAP形式
もうこの言葉も普及してきましたので、ほとんどの方がご存じだと思いますが、日々の経過を次の分類で記述する形式です。
S (Subjective)主観的データ(過去の情報)
O (Objective)客観的データ(現在の情報)
A (Assessment)評価・考察・診断名(病名)
P (Plan)計画
【S】 主観的データ
患者さんの主観による情報のことですので、主に問診で聞き取った情報です。患者さんの語る症状の経過、出来事などです。患者さんの考え方(解釈モデル)などもこの分類です。
【O】 客観的データ
視診、触診、画像診断、歯周病検査などの客観的なデータのことです。検査結果そのものだけでなく、その所見も書きます。(X線写真だけでなく、それを読影した結果も記す)そう言った意味では、「術者の主観的なデータ」とも言えます。
【A】 評価(アセスメント)
評価と訳すよりアセスメントと言った方が適切です。ここには「術者の思考過程あるいはその結果」を書きます。
医師が書くカルテの場合の多くは「診断名(病名)」となるでしょう。SOから導き出される結果が自明であれば(歯科の場合はそういう場合がほとんどでしょうけど)診断名だけで十分です。自明ではない場合は、診断名とともに、それに至った理由も書いておくといいでしょう。診断名がつかない場合はその思考過程を記載しておきます。
また次に続く「計画」を立案あるいは計画変更の「理由」を記載する場所でもあります。
【P】 計画
文字通り「計画」です。診断名がつけば治療法が決まるのが保険診療ですが、自明であっても必ず記載します。治療計画だけでなく検査・指導計画なども書きます。
ただし経過記録での【P】は次のステップで必ず実行する計画を断定的に記載することが望ましいと言われています。(目標を同時に記載するのは問題ありません。)要は今日やることを書くということです。
例)部分床義歯、今日はレスト座形成と印象採得
■【S】なの【O】なの? 時制の視点
SとOを主観なのか客観なのかという視点だけで分けようとすると判断が難しいこともあります。
例えば、「打診(+)」まぁ、普通に考えれば、検査結果なので【O】ですが、痛みを感じてるのは患者さんの主観【S】ですよね?
「昨日血圧を測ったら162/98でした」血圧検査の結果だから【O】でもあるけど、これは患者さんから聞き出したものだから【S】?
そこで「過去」「現在」という時制の視点を取り入れると明確になります。
と分類します。
すると「打診(+)」は今、目の前で歯を叩いた結果なので、「現在」のデータで【O】
「昨日血圧を測ったら162/98でした」は「過去」のデータなので【S】
と明確に区分できます。
ただし、この分類法、成書やPOMRに関するサイトで見たことありません。便利なのですが、あくまでの個人的な意見としておいてください😅
ちなみに、こういう分類に困るところは、原著にある「監査 audit」という過程でカルテの監査を行い、医療機関内で意思の統一(打診はOに入れるとか)を図るのが正攻法です。
■A/Pという表現
【A】と【P】を一緒にして【A/P】という項目にしている例をよく見かけます。
「【A/P】歯髄の失活を確認したので感根治」という感じです。この程度の文章ならどれが計画かはすぐわかるので、書く手間を省くのにまとめたというのは理解できます。しかし、文章が長くなったり複数の文章があったりすると明確じゃない場合も出てきますので、面倒でも、重複してもよいので必ずわけるようにしましょう。今は電子カルテが主流ですので短くする意味も失われつつありますしね。
■基本データとSOAP
ここまでのお話で「基本データ」の構造とSOAP形式の類似性に気が付かれた方もいらっしゃるかと思います。
【現病歴】 <--> 【S】
【現症】 <--> 【O】
【問題リスト・考察】<--> 【A】
【初期計画】 <--> 【P】
このように綺麗に対応します。意味もほとんど同じです。
「基本データ」と「SOAP」の違いは「問題」で切り分けられているか否かです。「基本データ」は分けられておらず混沌としたまま記載しますが、「SOAP」は必ず問題毎に記載します。
さてここで歯科の特殊性を考えてみましょう。歯科では診断は比較的容易で問題の切り分けもそれほど苦労しません。なら、わざわざ混沌とした基本データを書かなくても、いきなり問題リストを作成して(頭の中で構築して)SOAP形式で書いてもいいんじゃねという考えがでてきます。
それ正解です。
そのような記載方法でも十分歯科ではPOMRと言っても良いと考えています。(個人的には原法に近い基本データが書かれていた方が好きですけどね)
■処置や手術ってどこに書くの?
成書や関連のサイトを見ても、処置や手術をここに書きなさいという明確なものが実はあまりみかけません。
この理由は明確でなく想像ですが、元々のアイデアは病院の内科系からのものですから、医師が「計画」に書いた事項はオーダーとして発注され、検査や薬局部門で実行されるだけで、外科系と違い、その計画はよほどのことがない限り完全に実施されます。また「計画」に書くのは実施が可能な計画と説明したように、そもそも計画段階から100%の達成を前提にしていますのであえて実施することを記載する必要はなかったのではないかと推測されます。
また、日本独自(かな?)の医科の保険用カルテでは、左右2つの分割されており、通常は左側にSOAPを書いて、右側に実施した処方、処置、手術を書きますので、あえて説明しなくても処置、手術は右側に書くという暗黙の了解があるからかもしれません。
さて、歯科ではどうでしょう。歯科ではそのような区分がないので、上下に並べて書かなくてはいけません。また、医科のカルテ形式を使うことは不文律として認められていません。(知ってますか?実は1号カルテの形式はきちりと通知で決められていますが、2号カルテは書く内容は決められているものレイアウトは指定されていないんです。けど、違った形式は許されませんので「不文律」なのです。)
というわけで、歯科の場合は右側には書けないので、自然とSOAPの後に続けて、その問題に対応した処置・手術を書いていくことになります。
■SOAPIER
SOAPには処置、手術を書くところが無いってことに困った先生もいらしゃったのでしょう。そこでSOAPを拡張したSOAPIERというのが出てきました。
SOAPに追加して
I (Intervention) 介入
E (Evaluation) 評価
R (Revison) 修正
の3つを追加したものです。
介入:
ここに処置、手術、処方を書きます。
評価:
処置、手術の結果の評価です。アセスメントではなく、文字通りの手術等が成功したかどうか、計画の達成度などの直接の評価(点数付)をします。
修正:
介入、評価の結果、修正された計画を書きます。
歯科などにも活用できる形式なのですが、いかんせん一般的ではないので保険用カルテに使うのは難しいでしょう。【E】って書いてあると、「なにこれ?多くの人に(私に)わかるようにように書きなさい」って指摘されかねませんので😅
【I】はタイトルなしでも処置、手術が並んでいればわかりますし、【E】【R】はSOAPで代用できます。そこで、術後に評価や計画などの変更、追加等を明確にしたい時は処置、手術のあとにSOAPを追加するといいでしょう。
■SOAPとPDCAサイクル
一般的な企業では仕事の進め方として「PDCAサイクル」というのがあります。もともとは品質管理のための手法でしたが今ではそれ以外の幅広い分野で活用されています。
PDCAサイクルとは
P (Plan) 計画
D (Do) 実行
C (Check) 評価・測定
A (Action) 改善・対策
これらを順番にこなしていく方法です。
ある仕事に対して、まずは「計画」を立案し「実行」する。その結果を「測定・評価」して、問題点を「改善・対策」し、新たな「計画」を立案し….
と4つの事をくるくる繰り返して(サイクル)仕事を進めていくことです。これにより効率的に仕事の品質を向上させることができるとされています。
PDCAサイクルとSOAPを比較すると
P (Plan) 計画 <--> 【P】
D (Do) 実行 <--> 処置、手術
C (Check) 評価・測定 <--> 【S】【O】
A (Action) 改善・対策 <--> 【A】
スタートこそ違うものの見事に一致します。
そうなのです。SOAP形式で記述するということは、そのままPDCAサイクルを回していることになります。
SOAP記述はPDCAサイクルを回しているのだという視点は大事です。
PDCAサイクルを意識しつつSOAP形式に真摯に取り組むことで、患者さんにとってベストの医療を施すという本来の目的だけではなく、技量の不足を明確にして必要なスキルを取得するのにセミナーに参加しようとか、あたらな検査機器を導入しようとか、スタッフ教育にこのようなことが必要だとかという、より大きな枠組みでの気づきも得られるでしょう。
今回は少々長くなりましたので、ここまで。
ではでは
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