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お日様先生

ラジオでマオリ彫刻のアーティストのインタビューを聴いた。

この女性は、40年間刑務所に通って、受刑者達にマオリ彫刻を教えたと言う。このアートクラスは特に受刑率の高いマオリ人の若者のためのもので、生徒はみんな窃盗や傷害事件で刑に服している青少年だ。

マオリ人でありながらもマオリ語が話せない人も多く、マオリ文化と無縁の子どもたちもいる。そんな中で、マオリのアートワークがセラピーとして取り入れられている。

先生は教え始めた頃を振り返りながら「初めはこの子たちにどうやったらアートなんて教えられるの?」と心配だったと言う。特に、先生はパケハ (白人)なので、自分にマオリ芸術を教える資格があるのかという疑問もあったけれど、とにかく自分ができることをしたいという思いで飛び込んだ。

 締めるところは締める、けっこう厳しい先生だったらしいが、先生の熱意と温かい人柄は若者たちの心を開いていった。

 (勝手に)名づけて「お日様先生」

「ここでは俺のことなんかだれも知らないけど、先生は自分を名前で呼んでくれる」ボーンカービングをしながら、ひとりの男の子がつぶやいた。

  こんな当たり前のことが、この子たちにはかけがえのないことなんだ...

犯罪者というレッテルをはられ、苗字を呼び捨てにされる環境の中に、先生ともファーストネームで呼び合える救いの場があった。

 ”They trusted me." 「彼らは私を信頼してくれたの」

ある日、体格のいい新入りがクラスに現れた。低めに流していた音楽のボリュームを、彼が勝手に上げたので、先生は「ボリュームはこのぐらいね」と下げた。とたんに、彼がまた上げる。それを数回繰り返していると、元からいた生徒たちが新入りに向かって、「このクラスの中では(先生の名前)のルールに従え!それが嫌なら出て行け」と詰め寄った。

先生が一番うれしいのは、更生した青年たちの生活を垣間見る時だそうだ。小さな町に住んでいると、元生徒にばったり会うことがある。

奥さんと小学生の息子を連れて、すっかり立派なお父さんになったある青年は、「彼女はボクの元チューターだよ」と家族に紹介した。

「奥さんはともかく、子どもはどこかの学校のチューターだと思ったでしょうね」と先生は笑った。

信頼できる大人に出会えたというだけで、彼らの人生は変わったんだろう。自分のルーツであるアートをやりながら、仲間とすごす時間がどんなに癒しになったことか。

お日様先生の愛は、冷たく縮こまった心を、やさしく温めてくれる。「扉を開けてもだいじょうぶだよ」と励まし、心の底に隠れていたキラキラに、希望の光を当ててくれる。

Koru 庭のシダの芽 NZ fern fond 

 

 

 

 

 

 

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