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パジャマのふたつめのボタン🟰プロローグ2🟰
先代犬との別れからまだたった3ヶ月しか経っていないのにって、心のどこかでため息が聞こえる。
もう耐えられない!自分の視界に犬の居ない日々なんて、と頭の端から叫び声がする。
友人の家に着くと私を待ってましたのかけ声と共に、玄関フードの中から出迎えてくれたサモエド達の尾ががワイパーみたいに左右を行ったり来たりした。
私は彼らに真っ直ぐ手を伸ばし、声を出さずに厚みのあるふさふさとした毛を思い切り鷲掴みして撫でまくった。
言葉なんていらない、かけなくても伝えられるし、ちゃんと伝わって来る。
彼らのダイナミックで逞しい体躯と、白銀のゴージャスな被毛、そして満面の笑みを浮かべながら私の顔をぺろりとする大きな舌。
次第に愛嬌いっぱいに激しくしっぽを振り、ねえねえ早く入りなよと歓迎のセレモニーは続いた。
なんて、なんて、愛おしい。
動くたび宙に舞う毛に導かれるような、そして私は彼らの奥に居る友人を見つけた。
南の窓から射し込む光に空気が輝いて見え、ふと自分の服を見下ろすとさっき付いた彼らの毛が、ラメを纏ってるみたいにキラキラと光っていた。
私たちが2階のテーブルに落ち着くと、兄犬が自分の前足をちょこんと主人の足に重ねゴロンと音を立てて寝転んだ。
弟犬は先ほどみんなが階段を上がるタイミングで、ひとりそそくさと階下のクレートの中へと戻って行った。
とってもマイペース、それがまた彼らの良いところ。
兄犬のガサガサした肉球が靴下の繊維に引っかかって擦れる音が、大きな鼻息とともに聞こえた。
とりとめのない話題から私たちの会話は始まり、しばしの時が流れていった。
ふと友人がぽつりと言った。
「サモエドを飼ったことのある人は、次もまた必ずサモエドを選ぶんだって」
何も聞かなくてもわかってるよ、と言ってるみたいだった。
薄情だよね、先代の犬に悪いと思ったら普通こんなに早く次の犬を探したりしないよね
そんな気持ちがここに来るまでずっとあった。
自分が次の犬に向かって心が動くことが許せないというか、先代犬を忘れてしまう事になるんじゃないかという恐れ、怖さがあった。
でも友人の発したひと言には
先代犬たちが居たからこそ、今日ここに来たんだよね
そんな風に聞こえて目頭が熱くなった。
友人のサモエド達はどちらも元ムツゴロウ王国に居た石川利昭さんの所から迎えていて、私さえ良ければその石川百友坊を紹介してくれると言った。まずは会ってみたら?と言われ私は二つ返事でお願いした。
もうここで迷ってはいられなかった。
友人はすぐに次の週末、見学に行く約束を取り付けてくれた。
私の家にサモエドが来るかもしれない。
まだこの時点では絶対ではなかったけれど、運命の糸がだれかと繋がった感覚がした。
つづく
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