ダメになる会話 「うろ覚え」

男1:「確か最初は…『昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。』だよな。」

男2:「何やってんだ?」

男1:「幼稚園で一寸法師のお芝居をやるってんで、俺が台本をかくことになったんだ。」

男2:「また面倒な事を引き受けたな。」

男1:「引き受けたものの、考えてみたら一寸法師の話ってあんまり覚えてなくてなあ。」

男2:「俺もほとんど思い出せんな。」

男1:「そもそも一寸法師はどうやって産まれるんだ?」

男2:「家には…おじいさんとおばあさんしかいないハズだよな?」

男1:「うーん、お椀とお箸がでてくるのはなんとなく覚えてるんだが。」

男2:「じゃあ、お椀の中に赤ちゃんがいたんじゃね?」

男1:「だったらタイトルは『お椀太郎』なんじゃないか?」

男2:「だって金太郎は金から生まれてないし、おやゆび姫は親指から生まれないし、かぐや姫の家は家具屋じゃないだろ?」

男1:「かぐや姫と家具屋は関係あったっけ?まあいいや。じゃあここは『ある日おばあさんはお椀の中にいる小さな赤ちゃんを見つけました。』か。」

男2:「うんうん、それっぽいぞ。」

男1:『「そこで二人は赤ちゃんを一寸法師と名付けました。』あれ?赤ちゃんの時点でこの名前つけるのは変じゃね?」

男2:「お椀に入るほど小さい赤ちゃんだから一寸法師って名前にしたら、その呪いでそれ以上大きくならなかったんだろ。」

男1:「呪いで?!おじいさんたちもそんな事になるなら「二メートル法師」にしとけばよかったって後悔したろうなあ。」

男2:「残念だがあとの祭りだな。で、次はどうなるんだ?」

男1:「ええと確か、都に行きたがるんだ。『スクスクと育った』…いや『名前の呪いのせいでスクスクとは育たなかった一寸法師はある日、都へ行きたいと言いだしました。』なんで都に行きたいんだろうな?」

男2:「そりゃ、田舎の山奥じゃ若い女もいないんだろ。嫁さん探すには都会に行かなきゃ。」

男1:「嫁探しのためなのか。まあ、おじいさん達もできれば孫の顔が見たいだろうしな。『おじいさんおばあさん、僕、お嫁さんを探しに都に行ってきます。』この後、何かに乗って川を下るんだ。」

男2:「オモチャのボートとか?」

男1:「いや、そういう乗り物じゃないものだった気がする。家にあるもので間に合わせるんだ。…かまぼこ板かな?」

男2:「そんなもんすぐ転覆しちまうだろ?もっと水に浮いて、水が入らない物じゃないと。タッパーとか。」

男1:「タッパー?この時代にタッパーは変だろ?」

男2:「なんかタッパー的な物だよ。フタしたら水も入ってこないし。」

男1:「都につく前に窒息するんじゃないか?」

男2:「そこは工夫したんだろ。小さい空気穴を開けてあるんだよ。」

男1:「『一寸法師は空気穴を開けたタッパー的なものに入って都を目指しました。』と。」

男2:「よし、順調だな。次は?」

男1:「都についた一寸法師は…どこにいくんだっけな?」

男2:「嫁探しなんだから、女のたくさんいる所だろ?」

男1:「女がたくさんいる所?女湯とか?」

男2:「なるほど。一寸法師も年頃の男だ。都のきれいな女をみたら女湯のひとつものぞきたくなったんだろ。」

男1:「昔話の主役が女湯をのぞいちゃダメじゃないか?」

男2:「いやいや『英雄は色を好む』なんて言葉もあるんだ。そういうシーンがあったほうが見る方も面白いだろ?」

男1:「そうかなあ?『都についた一寸法師は嫁探しの前に小さい体を利用して女湯を覗く事にしました。』…これ子供に聞かせて大丈夫かな?」

男2:「そこはやっぱり、番台の婆さんに見つかってしまうんだろ。お約束だ。」

男1:「『しかし番台の婆さんに見つかってしまいまい、つまみ上げられてしまいました。』おかしいな?記憶では鬼につまみ上げられてるイラストだった気がするんだが。」

男2:「じゃあきっと番台の婆さんが鬼婆だったんだろ?」

男1:「なるほど。『一寸法師は鬼婆を倒すために武器を抜いて飛びかかりました。』武器はなんだっけ?」

男2:「一寸法師が持てる大きさの武器なんて限られてるな。」

男1:「なんか長細い物だった気がする。」

男2:「箸が出てくるって言ってたじゃん。」

男1:「あーそうか、じゃ箸が武器か。でもどうやって箸で鬼婆を倒すんだ?」

男2:「そこはご都合主義で箸でも勝てちゃうんじゃねーの?」

男1:「いや、子供心にエゲツない勝ち方だなと思った記憶がある。」

男2:「だったらもう、目を突くしかないな。」

男1:「目を!?そんなバイオレンスな戦いを園児に見せるのか?」

男2:「お笑いとバイオレンス。人気の組合せだぞ。」

男1:「て事は『これでもくらえー!と一寸法師は鬼婆の目を箸で突き刺しました。鬼婆は『目が!目があーっ!』と叫びながら崩れおちました。』ものすごい凄惨な感じになってしまったぞ?」

男2:「昔話は意外と残酷な描写があるんだよ。」

男1:「そういうもんか。さて、ここでなんか一寸法師の望みが叶うんだよ。」

男2:「望みは女湯をのぞく事だろ。」

男1:「そうだったな。『番台のお婆さんを倒した一寸法師は女湯を心ゆくまでのぞく事が出来ました。』うーん、こんな終わり方だったっけなあ?」

男2:「箸とお椀も出て来たし、一通りクリアしてるんじゃないか?」

男1:「いやでもなあ、なんか大事な部分が抜けてる気がするんだよなぁ…あ!そうだ、最後に一寸法師は大きくなるはずなんだよ!」

男2:「そりゃこの流れなら大きくなるだろ?」

男1:「え?何がどうなって大きくなるんだ?」

男2:「年頃の一寸法師が女湯をタップリのぞいたんだぞ?そしたら大きくなるだろ?」

男1:「あ、なるほど。『なんという事でしょう!女湯をのぞいた一寸法師は体の一部がみるみる大きくなりましたとさ。めでたしめでたし。』」

男2:「ははっ。一寸法師サイテーだな。」

男1:「おかしいな、どこから間違ったんだろう?」

-END-

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