ダメになる会話「忘却」

妙な男「ちょっとごめんなさいよ。お兄さん、ちょっといいかい?」
若い男「ん?あんた誰だ?」
妙な男「ふっふっふ、この顔を見てもそんな事がいえるかな?」
若い男「お、お前はっ?!」
妙な男「『ここであったが100年目』なんてセリフは、こういう時に使うのかもしれんな。」
若い男「お…お前は…」
妙な男「どうした?驚きすぎて言葉も出ないか?」
若い男「…」
妙な男「…」
若い男「だ、誰?」
妙な男「え?」
若い男「いや、全く見覚えがないけど、誰?」
妙な男「きっ、貴様っ!あ、あれだけの事をしておきながら、俺が誰かわからんというのか?!」
若い男「『いうのか?!』って言われても、知らんものは知らん。」
妙な男「知らんわけあるかっ!お、俺はこの日のために5年!5年もお前を探し続けたんだぞっ!」
若い男「5年…前…」
妙な男「そうだ!あれから5年だ!これで思い出したろうっ!」
若い男「いやゴメン、ホントこころあたりがないわ。」
妙な男「ない事ないって!絶対あるって!真剣に思い出そうとしてないだけだって!」
若い男「そう言われてもなあ。」
妙な男「マジか…アレを忘れるなんて…お前マジか…」
若い男「なんか、ヒントは?」
妙な男「ヒント?!お前、俺を地獄に叩き落としたあの事を、クイズ形式で発表しろっていうのか?!正解なら『ピンポーン』で不正解なら『ブッブー』てか?!仲良しか?!」
若い男「いやだって、顔見ても思い出せないんだから仕方ないじゃない。」
妙な男「ダメだっ!どうしたら忘れられるんだ!お前、アレだぞ?あんな、あんなむごい事をしでかしておいて…」
若い男「そんなにひどい事を?」
妙な男「そうとも、おかげで俺はあれから、毎晩毎晩、血の涙をこらえながら眠る毎日だった…」
若い男「あ、血の涙って、悔しいからって出ないんだよ?だって涙は涙腺って穴から出て…」
妙な男「今そんなことどうでもいいわっ!涙腺とかいいわっ!思い出したのかっ?!俺の事をっ?!」
若い男「いやー、それがどう見ても見覚えがないし、心当たりもさっぱり無いんだよねぇ」
妙な男「つまり…お前は…俺にあんな仕打ちをしておきながら、それを罪とも思わず今日まで安穏と暮らしてきたというわけか…」
若い男「あのー、もしかしてですけど。」
妙な男「思い出したのか?!」
若い男「いや、人違いって事はない?」
妙な男「ひ…人違い?」
若い男「うんうん。俺よくやるんだよね、ほら、後ろから見たら絶対あいつだーって思って声かけたら、全然知らん人でさー」
妙な男「だぁまれえぇーーーーーーーっ!」
若い男「ビックリした!すごい大きな声でビックリした。」
妙な男「人違い…だと…この5年…お前の顔を、1日たりとも忘れたことのない俺に向かって…言うに事欠いて…人違いだと…」
若い男「お、落ち着いて…ほら、うっかりってあるじゃない。自分でも、なんであんな事しちゃったかなあーって、そういう時がさ」
妙な男「ほう、うっかりか。俺からすべてを奪い、俺の人生を無意味にし、もはやお前に復讐する以外に生きている意味を失ったこの俺に向かって、あれはうっかりだったと。」
若い男「いや、そうじゃなくて、うっかり人違いしてるんじゃないかって。」
妙な男「もういい、だまれ。とぼけているのか、本当に忘れているのか、どっちにせよ、お前を許さない理由がひとつ増えただけの事だ。」
若い男「ちょっ!それっ!ほ、包丁?!マジで?!マジで殺す気なの?!」
妙な男「自分がなぜこんな目にあうのか本当に思い出せんというなら!地獄でゆっくり思い出すがいい!菊山田慎一郎っ!覚悟ォッ!!」
若い男「慎一郎なら双子の兄ですけど?」
妙な男「まっちがえたーーー!すみませーーーーんっ!さよーーーならーーーーっ!」
若い男「…慎一郎兄ちゃん、あの人に何したんだろう…」

-END-

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