宮沢和史『次世界』(❛21)について
宮沢和史『次世界』(❛21) 活動形態からすっかりセミリタイアしたかと思っていた宮様の新譜。前作(❛19)はそうしたセミリタイアした彼ならではの「真新しさは無いが、(無理に新しいことをしようとせず)自然体で滲み出るようなMIYAZAWA ISMが溢れる佳作」だった。
今作『次世界』も、こうした「枯れた味わい深さと、自然体のポップネス」が展開するものかと思い、CDを再生したところ驚いた。特に前半の4曲がセミリタイアどころか、現役感と覇気に溢れた楽曲群であり、若々しささえ感じるのだ。
確かに、わかり易い新しさはない。後期THE BOOMの神曲「僕にできるすべて」路線といえばそれまでだろう。たが、末期THE BOOMをブラッシュアップしたようなサウンドメイク、そして「自然体の瑞々しさと覇気」を加味したような宮様のスタイルは確実に“新しい”のだ。なんだこれは……。
翻って後半の楽曲群は、後期THE BOOMから続くシンプルな歌モノ路線だが、こちらも従来とは比較にならないほど瑞々しく、やはり覇気に溢れている。 オーラスには98年に発表された「旅立ちの時」再録版が収録されているが、決してオリジナルに見劣りしない。むしろそれを凌駕してさえいる。まさかここに来て彼からこんなにエネルギッシュで、“今後に期待が持てる作品”が出て来るとは思いもしなかった。これは嬉しい誤算だ。
活動休止を経た宮沢和史が、その活動休止を経たからこそ達した“次世界”に立ったことを感じさせる名盤。久々にCDプレーヤーの前でガッツポーズする新譜に出会えてとても嬉しい。デビュー32年目にして生まれた宮沢和史の新たな傑作だ。
※2021年3月の発売当時のインプレに若干の修正を加えて掲載。