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【小説】日常という忘却



【前書き】

 こんにちは、ぶるベリです。
 今回は、いつもと違って、小説風に記事を書き上げてみました。僕自身、物語を書くのは初めての試みなので、これを公開するかどうかを少し悩みました。しかし、やってみたいことはとりあえずやってみる精神なので、とりあえず公開してみます。暖かく見守っていただけると嬉しいです。

【本編】

 いつも通りの土曜日。朝5時頃に起き、制服と化したエアリズムのポロシャツを着て、朝ごはんを食べずにバイトへ向かう。早朝だというのに最寄り駅まで10分歩くだけで汗ばんでしまう。これが、早朝じゃなかったらと思うとそれだけで嫌になるくらいだ。
 そして、これと言ったことなく、9時にバイトを終えた。小腹がすいたし、なにか考え事をしたいと思い、近くのミスタードーナツへと足を運んだ。職場は冷房が効いているため、ホットコーヒーでも飲みたい気分だったが、数分歩いただけで、体はすぐに火照た。初めは、ポンデリングを食べようと思っていたのだが、ショーケースの中に並べられた、ゴールデンチョコレートを一目見てから、その考え方は一転した。二つ食べようとも思ったが、腹八分目にした方が幸福感を味わえると思い、アイスコーヒーとゴールデンチョコレートを注文した。金額は430円。安くない金額に少し不満を持ちつつ、二人掛けタイプの椅子に腰かけた。
 考え事をしようと思って、入店したわけだが、考え事というよりは、考えていることを実行するかどうかを決めるだけの時間を欲していた。それは、一人旅だ。漠然と、一人旅をしてみたい。という衝動に昔から駆られていたが、なかなか一歩踏み出すことはできなかったのだ。しかし、その日だけはノリと勢いで行けるような気がしていた。
 そして、池袋から電車一本で行ける都合のいい場所はないかと調べていると、秩父が目についた。そして、8,000円もする今の自分にとっては高額なお金をホテル代として払い、秩父に行くことを決めた。

 なんというか、最初のほうは、希望に満ち溢れていた。自分が知らない土地、普段とは違う街並み、普段とは違う時間の過ごし方。些細な刺激を感じては興奮する自分がそこにはいた。そして、地元の食材を食べるという漠然とした目標を達成し、地元の喫茶店でコーヒーを飲むというささやかな幸せも感じた。その後は、脱水症状も忘れてしまうくらいに山を登り、滝を見て、丘の上から絶景を見た。丘の上から絶景を見たときにはもう自分の中では、この旅に関しては満足していたであろう(後から気づくことではあるが)。秩父についてから3時間くらいであろうか、練り歩いてからは、最初のわくわくで持っていた体力は果て、ホテルで休むことを望んでいた。チェックインの15:00にはホテルの前でスタンバっていたほどだ。そこから、ホテルで2時間半ほど休み、秩父神社に行ってみたはいいものの営業時間外。まだ17:30だぞと思いながらも、下調べをせずに行った自分に自己責任を感じた。その後、近くの居酒屋に入ろうと思ったが、滲み出る地元のノリ感に堪えられる気がせずに、入店まではできなかった。何だろうか、ランチは一人でも気軽に入れるのに、ディナーは一人じゃ入店しづらいことになにかしら働く心理はあるのだろう。結局のところ、すき家でチーズ牛丼を買い、ファミリーマートでお酒を買ってホテルに戻った。帰路についている途中、ふと孤独感を覚えた。ああ、一人旅に来て環境を変えても孤独感は感じるものなんだな。いつもの孤独感が組み込まれている日常では感じることが当たり前すぎて、それを感じることに疎くなっていたのだろう。。この感情は、一人で行動し、環境を変えるたびに味わうものなのだろうか。

 ホテルにつくと、まずシャワーを浴びた(チェックインした時に一回浴びていたのだが)。綺麗で掃除された浴室、温水と冷水の入れ替わりがスムーズな機能。ああ、いつも通りではない。清掃員がマニュアルに従ってきれいに清掃した、清潔な空間にとても感謝を感じていた。このような空間が毎日用意されていたらどれほど幸福を味わえるのだろうか。と思う反面、このような生活を毎日していたら、この生活に心が慣れてしまい、感謝を感じることがかなり難しくなってしまうのだろう。私自身、18までは実家暮らしをしていたこともあり、そのあたりに感じる感謝は人一倍であると自負している。だからこそ、慣れてしまうことが怖く、変化や刺激を求めてしまうのだろう。シャワーから上がった後、キンキンに冷やしておいたビールとともに、チーズ牛丼をテーブルにセットした。そして、部屋の明かりを間接照明に切り替え、テレビでBSのサッカー中継を流した。そこには、いつもの日常では味わうことのできない空間が完成していた。これはいいな。と思い、いっそのこと自分の部屋をホテルみたいに仕上げてしまうか?と思ったが、“これ”がいいと思う原因は非日常にあるのであって、“これ”を日常にしてしまえば、よさを感じられなくなってしまうのではないかと思った。いや、多分そうなのだろう。今に不満を感じていないのであれば、そのいつもの日常は幸せなのだろう。それを、当たり前のように過ごしてしまっているからこそ、それを幸せだと思う感覚が麻痺してしまっているのではないかと思う。このホテルでの生活という非日常も幸せだなと思いつつ、ビールを口に運び、チーズ牛丼を頬張り、サッカーの中継を見る。ああ、今日も幸せだなと思う。そのまま、ベットで休んでいたら、いつの間にか朝になっていた。

 朝目覚めた後に、シャワーを浴びた。そして、無料の朝食バイキングを食べに行った。いつもは、オートミールに卵を落として卵かけご飯もどきを食べるか、グラノーラを牛乳に浸して食べるかの2択だが、今日は、朝食が用意されている。しかもバイキング形式。栄養バランスも自分で考えて食べるものを選べる環境。実に素晴らしいなと思った。そして、おいしい。洗い物もしてくれる。このようなことは、ホテルでは当たり前なことかもしれないが、自分にとってはとても感謝すべきことに思えた。もちろん、対価として料金は払ってるとは言えども、感謝を感じられずにはいなかったのだ。こういう生活も悪くない。

 もしかすると、家事など、身の回りのことをするのが苦手な自分にとって、最適なのはホテル暮らしなのではないのか。目指すべきライフスタイルなのではないか。特にインテリアにもこだわらないし、自分の所有物もほとんどない。自分の空間を一日に一回変えるという生活も変化や刺激があって楽しいのではないのか。それが当たり前になってしまわないように自分にある軸を確固たるものにしていくべきだと感じた。

 二日目はもうなにもする気が起きなかったので、すぐに電車に乗って、家まで帰った。定期的にこういう一人旅をしていきたい。

【あとがき】

 最後まで、ご精読ありがとうございました。
 この物語は、男子大学生が一人旅で感じたことをテーマに書き上げています。いつも通りの日常から始まり、急に決まった一人旅。この非日常で味わった経験から、日々の日常への感謝を噛み締める心情の変化を繊細に書き上げました。筆者が強調したいのは、「感謝」の気持ちです。感じ方は人それぞれですが、他人軸ではなく、自分軸で幸せを見つけるということの大切さを伝えたかった作品でした。
 ぜひ、読者の皆さんも日々に刺激を与えるべく、一人旅をしてみてはどうでしょうか。本当にここまでご精読ありがとうございました。

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