Peaceful collector
ピースフルコレクターの日記より
2/18
朝はやく、目の中で、水の中で、桃がゆらいでいる。
ひとみには桃が浮かんでいた、まつげの間を行ったり来たり
声に、みがきがかかる。
ながれおちていいかおりだけ残る。
けれど誰も、気づいてはいなかった。
つよい自由な追い風をうけて、かわいい小さな帆船がゆく
うつくしくてしなやかな村をめざしてる。
風と船は波をころがりながら、
きゃあきゃあ、ぴいぴい、わらいながら進んでゆく。
はなをいっぱいにふくらませて、花のかおりをすいこんで
からだじゅうにゆきわたらせて、花の息をはく はあ ふう ほー。
そいでまた、すいこんだ。足のゆび先まですいこんだ。
あなたが生まれた日のことだ。ヒヤシンスが咲いたのよ。シャンシャン。
2/20
手鏡をみると、顔の中の無数のそばかすがザザっと上下左右と隠れていった。
ばれてるよ。出てきなさい!と思わず言う。
すると、ニヤニヤしながらみんなで出てきて、いつもの配置についたよう。
で、こっそり、オリオン座つくってふざけてる。
くやしい!だってオリオン座はわたしのいちばん好きな星のならびなんだからね。
ほんとうは、わたしの見つけたわたしだけの星座だったのにね。教科書を見るまでは。
わたしは喜ぶことにする。
腕は夜につっこんで星座をかきまわす。水の中のように、スローモーション。
足のうらから弱い風が吹いて、静かな電気をまとってる、だから少しだけうかんでるんだけど、
これも誰にも気づかれてはいない。
わたしの生まれた日のことだ。ヒヤシンスは溶けたらしい。
3/19
今日はシルクの布みたいな風がふいてきて、うつくしかった。
いきぐるしい砂ぼこりの向こうから。
砂ぼこりのやつ、薄っぺらのカーテンみたいにはためいて逃げていったね。
桃をもって
わたし手には桃をもってた、それで、すぐに、みずみずしい展開になる。
草の上に、誰かの手で織り上げられたすてきな絨毯をしいて、
横になって、オレンジ色したジューシーな朝焼けが、ここにきた。ここまできてくれた。
のどがうるおってゆく。朝焼けをかじってみる、ゴクゴクゴク。
誰か、気づいたかな。
それは、あまい、春の光のあじがした。
こうやって、好きなものをあつめてく。
目にやきつける、今このときの朝焼けも、
やわらかくてあまくていいにおいの桃、
踏んづけちゃったにがくてすっぱい小さなブルーの果実たち。
溶けたヒヤシンス、きれいな石、変な形の貝殻、
博物館で見た土偶も、リサイクルショップで買わなかった中国の花瓶も、わたしの星座も、
あの日もこの日もあの色も この指先も
みんなわたしのコレクション。
わたしは平和なコレクター。
ねえ気づいたでしょう、あなたも、だよね。
Peaceful collector/2022.3/19-4/4 at Fons Karin Okamoto