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播磨陰陽師の独り言・第二百七十五話「Nさんのこと」

 西成区で街づくりをしていた頃、時々、東京の某テレビ局に出張していました。そこでは、新しくコンピュータを導入し、デジタル・ビデオ編集をはじめたと言うことで、そのマシンの使い方などを調べたり、コンピュータの使い方そのものを教えに行っていました。
 そこで出会ったのがNさんと言うお爺さんでした。Nさんは、いつも楽しそうに座っていました。私がコンピュータをいじっていると、後ろに座り、話しかけてくれました。Nさんは左右の靴下の色が違っていて、左手にウルトラマンの指輪をしていました。
 お昼休みになると、社員食堂へ連れて行ってくれて、カレーをおごってくれました。その時、すれ違う人たちは、皆、Nさんに挨拶していました。
 それで、ある時、
「Nさんって、昔、何をしていた人なのですか?」
 と尋ねたら、
「うーん、ウルトラマン……」
 と言いました。
「ウルトラマン?」
 そうです。彼はウルトラマンや円谷プロの特撮映像の光学合成をした人だったのです。ものの資料には、
——光学合成の第一人者。
 と書いてありました。まさか本人に出会えるなんて夢みたいな出来事でした。Nさんは、残念なことにすでに亡くなっています。
 Nさんは、
「過去の仕事をやり直している」
 と言っていました。勝手にスタジオに入って、テレビシリーズなどのマスターフィルムを合成し直して、完璧なものに仕上げでいるのだそうです。
 ウルトラマンやウルトラセブンの映像はもちろんのこと、怪奇大作戦なども合成し直しているそうです。
「だから、昔に見た映像より、最近のものがキレイだろう」
 と笑っていました。
 映画『影武者』の山の見えるシーンの中で、山を歩く人が見えている部分があったそうです。それを後になって、監督に内緒で合成し直したそうです。このことは、監督も知らずに亡くなったそうですが……。

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