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播磨陰陽師の独り言・第百九十一話「雛人形のことなど」
毎月、様々な行事について書いていますが、今月はもうありません。来月の頭にひな祭りがあるくらいです。その日のことは、三月に書くとして、雛祭りのマナーとやらで、
「ひな人形はお下がりではなく、新しく買うのが望ましい」
と言うものがあるそうです。雛人形を売っている団体が言い出したマナーなので非難されています。
彼らによると、
「ひな人形は江戸時代からの伝統ですが、古いことなので文献もなく、資料もない」
と前置きしながら、
「昔は、家ごとに、新しい人形を買い求めたので、お下がりではなかった云々」
と言っています。
江戸時代の文献に『未然記』と言う絵草紙があります。これは聖徳太子が書いたとされる『未来記』のパロディのような本です。江戸時代の人々が考えた、未来に起こるであろう馬鹿な話が書かれています。
その中に、
「未来の江戸では、雛人形を親が作らず、買って済ませるようになる」
と言う記事がありました。
江戸時代の人々は、それを読んで、
「ありえないことだ」
と笑ったそうです。しかし、今の世の中では、買う方が当たり前になってしまいました。
江戸時代からの伝統と言うなら、雛人形は買わずに、親や祖父母が、娘のために手作りするのが当たり前です。もちろん、今のような豪華な雛人形はありません。質素なものでも愛情がこもっていることが重要なのです。
伝統で言えば、豪華なひな人形を飾るのは、武家の風習です。先祖代々の豪華なひな人形を飾る訳ですが、武家を滅ぼしてしまった現代社会が、意味も知らずに、
「伝統、伝統……」
と言うのも何だか妙な気がします。
人形を売りたいと言う思いが前面に出ている〈えせ伝統〉な感じがして、不思議な気すらします。きちんと伝統を調べると、九月の重用の節句の時にも、雛人形を飾った記録があります。民俗学関連の書籍にもそのことは書かれています。
人形を売りたいのなら、春だけではなく、秋の雛祭りを復活させてはいかがでしょうか?
ちなみに、古い桃の節句の伝統では、桃の花を酒に入れて、桃酒を楽しんでいたそうです。また、春に川原や山へ行き……今で言うとキャンプやバーベキューのような行事を行っていた記録もあります。
ただ、この時の料理は、新仏が出た家の卒塔婆などを薪にして作ったようです。その食事を先祖の霊に捧げて、
「無病息災を願った」
とあります。
いずれにしても、ただのお祭りではなく、先祖供養の一環として行われていたもののようですが……。
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