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播磨陰陽師の独り言・第百四十話「正月飾りの日」
本日12月28日は正月飾りの日です。30日に注連縄などを飾ると〈一夜飾り〉となり縁起が悪いです。29日に飾るのも縁起の悪いとされていますので、28日に正月飾りを行う訳です。ちなみに昔の大晦日は30日でした。新暦になってから31日が追加されたものです。
正月飾りは鏡餅と注連縄、門松などを飾ります。
鏡餅は鏡の形をしているのでついた名ではありません。武家の正月では、男は甲冑などが入った具足櫃に〈具足餅〉をお供えし、女は鏡台に〈鏡餅〉を供えました。両方とも無病息災の祈りをこめたお供えでした。それが、一般家庭には具足がなかったため〈鏡餅〉とだけ呼ばれるようになった訳です。餅つきを28日の朝に行い、その日の内に鏡餅を飾ります。
鏡餅は、まず三方に四方紅を乗せます。これは四方を紅で縁取った色紙のことです。四方を拝して祓う意味があり〈四方拝〉とも呼ばれます。神楽では四方舞を踊って祓いますが、それと同じ意味になります。
次に裏白を乗せます。これは裏が白いので、神の心を表すとも、清廉潔白を表すとも言われています。
裏白の上には昆布を飾ります。昆布を〈夷子布〉と呼び、七福神のえべっさんになぞらえて福を得ると言う意味があります。
そして、四方紅、裏白、昆布を押さえるかのように、上に大きい方の餅を乗せ、その上に小さい方の餅を乗せます。関東の鏡餅は白いものが主流ですが、播磨の国では大きい餅を赤くしたものを使っていました。鏡餅は太陽と月を表しています。大きい方が太陽なので、当然、赤色となっているのです。この餅は米で作られています。それは大黒さんになぞらえています。そして三方は宝船に乗った恵比寿・大黒を表しているのです。
鏡餅に挟む串柿は、豊臣秀吉公がはじめたものです。串柿は〈嘉来〉と書かれ、喜びや幸せをかき集めると言われ、また、大きな種が子宝に恵まれることを願うものだそうです。しかし、実際は、保存に優れたものを飾り、いざと言う時に兵糧にしたとも伝わっています。地方によっては餅の間に挟む場合と、上に乗せる場合とがあります。
最後に鏡餅の上に乗せる蜜柑みたいなのは橙です。橙は、だいだい栄えますようにとの願いをこめたものです。私の田舎は北海道なので、橙よりも蜜柑を乗せることが多かったです。
注連縄は地方によって形が違います。九州北部では翼を開いた鶴の形をした注連縄を飾ります。これが山口県に渡ると亀の形になるから不思議です。
門松は竹のあるものばかりですが、これは江戸時代からの風習です。しかも、江戸の風習です。
徳川家が、
——武田(信玄)を切る。
との想いをこめて行っていたものが伝わったものです。西日本にはそのような風習はなかったのですが、武家を中心に段々と江戸風になったものです。本来の門松は〈松〉の枝だけを飾るものでした。名前がそもそも〈門松〉なので、門々に松を飾り歳徳の神を迎えたものです。この〈松を飾る〉ことを〈まつる〉と呼びます。
歳徳の神は松の枝に宿り休まれると言います。家々で松を飾り、歳徳の神に休んでもらい、新しい年の福を得ようと考える訳です。正月飾りがまだの方は、今日中に飾りましょう。福がやってきますように……。
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