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不幸のすべて・第二話「侍社会の福とは」

 今回は幸福の〈福〉の字についてです。この字は、神からの賜り物を意味しています。現在使用されている文字は〈福〉ですが、昔は示辺を使い〈福〉と書きました。江戸時代は、この文字のみで〈さいわい〉と読んだようです。
 幕末の辞書『字林』には、
「フク。或いは、サイワヒ。または、メグム。または、ヨシ」
 と、書いてありました。
 古来〈幸福〉の字を〈さちをめぐむ〉と読んでいました。
 これは、
「矢の霊力によりてもたらされたる食物を、命をつなぐ糧として 神より賜う」
 と言うことを意味しています。
 それは、
「神は人に、みずからの命を長らえる権利を与える」
 と伝わります。その権利こそが弓矢であり、矢によって得ることの出来る山の幸なのてす。そして、これこそが本来の〈幸福〉だと、考えていたようです。
 食べ物を得ることの難しい時代は、特に山の幸に感謝しました。それがなければ、生きて行くことすら出来ないのですから……。
 山の幸に比べて、海の幸は手で取る物が主流でした。まだ、釣り針や網は発明されていない時代のことです。人々は浜辺で貝を拾ったり、水中に潜って魚を手掴みしていました。やがて、釣り針と網が発明され、海の幸は劇的に変化しました。この頃から、漁師が良い魚に恵まれないと〈幸せが悪い〉と表現していました。良い魚に恵まれれば〈幸せが良い〉と言います。まだ単独で〈幸せ〉が幸福を意味する言葉ではなかった訳です。この言葉の使い方は江戸時代まで続きます。

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