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祈りのカタログ・第十一話「霊的なものを感知」

 魔魅に気付いた時は落ち着いてゆっくりと深呼吸し、

——祓い給え、清め給え。

 と唱えればそれで消えてくれます。
 この唱えごとは〈略詞りゃくし〉と呼ばれる祭文の一種です。この時の消えると言うのは消滅を意味するのではなく、その場所からいなくなることです。それは、まさしく、その場所から祓うだけで、けして消えることはありません。もともと命を持たない、つまり死ぬことすらない存在ですので、いなくなることはあっても死ぬことはないのです。厄介なことに時々戻って来ます。
 しかし、戻って来るたびに、

——祓い給え、清め給え。

 を唱えれば、そのつど、どこかへ帰ってゆきます。時々、力を増して戻って来ることもあります。そちらの場合は略詞のバージョン2である、

——祓い給え、清め給え。守り給え、さきわい給え。

 を唱えて押し戻します。
 この言葉は〈祭文さいもん〉と呼ばれます。人の心の中に生まれた、何だか分からない種類の不安も打ち消してくれる便利な言葉です。
 原因の分からない〈不安〉は、魔魅のような〈霊獣〉の気の障りにあてられる場合があります。妙な悩みを持つ時は、実はこれが多いのです。ほとんどの〈不安〉は目に見えない、または理解出来ない出来事を感知した時に、無意識が防御すると言うような脳の保護機能のひとつでしかありません。
 たとえば怪我をして、多くの血を流した時に感じる妙な不安は、血が出たことで血圧が低下して目眩めまいがすることと、
——このまま、血が流れ続けたら、たぶん出血死するだろう。
 と言う無意識の計算が、
——はやく、手当をして血を止めなさい。
 と命令しているから起こります。

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