播磨陰陽師の独り言・第511話「夜逃げ屋本舗?」
最近、アマゾンで配信されたアニメ『スナック・バス江』を見て少し思い出したことがあります。事件屋を手伝っていた頃、よくスナックに行くことがありました。行くと言っても、客のふりをして夜中まで遊んでいるような感じで、閉店後に夜逃げを手伝いに行くのです。
夜逃げとは言いますが、朝方に逃げることが多いです。と言うのは、夜中だとヤクザ屋さんが元気だからです。朝方になるとテンションが下がるヤクザ屋さんを相手に、借金取りから逃すのです。逃げるのではありませんよ。あくまでも夜逃げをサポートするのが仕事です。
夜逃げと言えば引っ越しをイメージする方も多いと思いますが、実際は本人と家族たちが荷物を持たずに消え去ります。夜中と言えども引っ越しをなどしていたら、かなり目立ちます。新しい名前と身分を書類にして、身ひとつで行方をくらますのです。
そして、夜逃げされたヤクザ屋さんの借金を事件にして、今度はこちらを追い込みます。上手く行けば借金はチャラ。上手く行かなくても事件にした分のお金は回収する訳です。何せ違法な高利貸しを相手にしているのですから、どのような事件でも捏ち上げられます。
ある時、オジキが、捕まえて来たヤクザ屋さんに、
「金、払わな、殺して大阪湾に沈めたるで……相手はヤクザやからな。殺しても、こっちは無罪や」
と叫んだことがありました。
その時、ヤクザ屋さんは泣きながら、
「そんなこと言わんと……」
と、お金を何とか工面すると約束していました。
ある意味、事件屋は、ヤクザに集る寄生虫のようなもので、裏社会の手練手管を心得ています。チームで脅す役、慰める役が決まっていて、絶妙なタイミングで鋭く話をまとめてしまうのです。その時は、相手の頭の良し悪しを見極めるのがポイントだそうです。ヤクザ屋さんは頭がよろしくない方が多く、そこにつけ込んで、ややこしい話を作って誤魔化すのだと教わりました。書類にハンコさえ押させてしまえば事件屋の勝ちです。
頭の良し悪しは国語力の勝負です。普段からの言動や、こちらの引っ掛け問題のような話の理解力をチェックしているのです。
また、最初から偽造した書類で連帯保証人にされてしまい、見破れずにお金を払うヤクザ屋さんもいます。書類は専門の連中が巧みに偽造しています。しかもたくさんの人たちの権利が関わるように作られています。債権者が多ければ多いほど、そして裏社会で恐れられる人々が関わるほど、その書類は効力を発揮します。しかも、あまりに出来の良い書類なので、よほどの専門家でもない限り、見破ることなどあり得ないそうですが……。
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