怪しい世界の住人〈龍神〉第四話「江戸時代の人々の認識」
③ 江戸時代の人々は?
江戸時代の人々は、龍と言う存在を、どのように認識していたのでしょうか?
当時の龍についての常識は『南総里見八犬伝』の中に描かれています。里見八犬伝は、ただの小説ではなく、当時の人が知るべき常識について指南するために書かれ、小説のような物語の構成になっているものです。
この物語は、全百巻を超える大作で、三十年近くかけて書かれました。最終巻が発行された頃は、子供の頃に読んでいた読者も四十代になっていて、当時の世の中の多くの人は、この小説に感化されて育ったのです。
今で言うと『ちび◯子ちゃん』や『ドラ◯もん』のような感じです。これらは最初の頃の巻を読んでいた読者が、すでに中高年の年齢に達しています。しかし、これらのコミックは、最初から子供向けに書かれたことを考えると……南総里見八犬伝は、最初から知性を持った大人向けの道徳や霊術の指南を目的に作られているため、奥がとても深い内容になっています。
さて、南総里見八犬伝第一巻の中で、主人公が龍を見るシーンがあります。その時、主人公は、龍と言うのはどう言う存在かについて部下に説明するのです。
その冒頭部分は、
——それ龍は神ツ物なり。変化、もとより極まりなし。古の人、言えることあり。龍は、立夏の節を待ちて分界して雨をやる。これを名付けて分龍と言う。
と、はじまります。
分界とは、境目をつけて分けることや、その境目や、境界のことも意味する言葉です。しかし、ここでは、現実と非現実の世界をまたがって移動することを意味します。霊獣である龍は空の中を自在に飛び回りますが、こちらの世界と接触するだけで、基本的にはこの世のものではありません。
龍が空間を移動してこの世界と接触すると、空に水の微粒子が集まって雲を造ります。それが龍の形に見える雲の正体です。この雲を〈龍雲〉と呼びます。
そして、次に、
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