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播磨陰陽師の独り言・第百四十三話「初詣のこと」
昔は大晦日の晩に霊験あらたかな寺社に参詣し、
「福の神から福徳をさずかる夢」
を授けてもらおうとしました。これは大晦日から元旦にかけて初詣をし、家に帰る習慣を作りだしました。除夜の鐘を一般の人が打つのはこの頃からの風習で、室町時代からあるそうです。それから元旦は朝まで起きていて、初日の出を見たのです。
狂言の『福の神』に、
「毎年、福の神の御前で年を取りますれば、次第次第に富貴になるようにござる」
と言うことで、毎年、福の神の神前に参詣していたところ、福の神が示現し、福を授ける約束する……と言う様子が描かれています。福の神と言えば七福神。その中でも特に毘沙門天が大晦日には好まれたそうです。
これは昨日も書きましたが、鞍馬の別当に、
——藍婆王と言う二頭の鬼が穴から出て都で悪さをしている。
と毘沙門のお告げがあり、退治したことに由来しています。
狂言の『連歌毘沙門』には、鞍馬の毘沙門天の神前に年取りの参詣にやって来た者のひとりが、夜中に、うっかり寝てしまい、毘沙門天から〈福あり(福の神の授けた梨の実)〉をひとつ授かりました。
これをふたりで争っているところに毘沙門天が現れ、ふたつに割って分け与え、さらに手に携えていた鉾と、被っていた兜まで与えると言う夢を見ました。しかし、夢の中で与えられた〈福梨〉が、夢から覚めても手元に残っていたと言うことで、まことにめでたい夢を見た物語となっています。
時々、
「初詣は午前零時を過ぎてからですか?」
と質問されることがあります。
そんな時は、
「いいえ、初詣は大晦日の内に行き、年越しをするものです」
と答えています。
皆さんも、余裕があれば、大晦日の内に行って、年越しをしてください。福の神の福徳がありますように……そして、今年はお世話になりました。ありがとうございました。
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