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播磨陰陽師の独り言・第百九十八話「刀に関する言葉」
日本語には刀のことを知らなければ意味の分からない言葉があります。それらは、たとえば〈切羽詰まる〉〈鎬を削る〉〈真剣勝負〉〈峰打ち〉〈一刀両断〉〈おっとり刀〉などの言葉です。
〈切羽詰まる〉は、刀の鍔の部分に留め金としてついている切羽脛金のことです。刀と刀が交差して、鍔がぶつかった時、もう動けない時が来ます。この時、切羽脛金が押されて詰まることから、言われた言葉です。切羽詰まるについて辞書で引くと、
——物事がさし迫る。全く窮《きゅう》する。最後のどたん場になる。
とあります。
次の〈鎬を削る〉を辞書で引くと、
——はげしく切り合う。また、はげしく争う。
とあります。鎬は刀の横の部分の名前です。切羽詰まると同じような感じで刀で切り、相手も刀で受けると、刀の側面である鎬が削れます。ここが削れると火花が散ることもあります。これを鎬を削ると言います。
〈真剣勝負〉は、まさしく真剣で勝負することです。辞書を引くと、
——真剣で勝負を決すること。命がけですること。
とあります。
〈峰打ち〉は、刀の背中の部分で切ることです。刃がない部分を使うので切ることは出来ません。峰打ちした時は、必ず、
「峰打ちじゃ、安心いたせ」
と声を掛けたそうです。これをしなければ、切られた方は心臓麻痺を起こして死ぬことがあったそうです。ダメだと思ったら死ぬのは今も昔も変わりませんね。
〈一刀両断〉を辞書で引くと、
——断固たる処置をすること。決断の速やかなさまにいう。
とあります。一刀で両断するのは、かなりの腕前がなければ難しいことです。
〈おっとり刀〉は、大急ぎで駆けつけることです。急な場面で、腰に刀を履く間もなく、急いで刀を手に取ることです。
刀とは直接関係ない言葉で、刀から来ている言葉には〈折紙付〉〈かわり番子〉〈急場しのぎ〉〈極め付き〉〈小手先〉〈相槌を打つ〉〈土壇場〉、そして〈薙刀あしらい〉があります。
〈折紙付〉も刀の用語です。保証付の物や確かな品質の物のことです。元々は刀に鑑定保証の折紙がついていたことを言った言葉です。
〈かわり番子〉は、交代ですることです。番子と言うのは、刀鍛冶の弟子たちのことです。番子が交代しながら踏鞴と呼ばれる送風機を踏むことから、かわり番子と呼ばれたものです。
〈急場しのぎ〉は、一時しのぎに何とかその場を切り抜けることです。戦っている時、刃が欠けても近くにある石などで刃を磨いて対処することからきているそうです。
〈極め付き〉は、刀の鑑定書の中でも高級な折紙のことです。これが付いている刀は品質が確かであるそうです。
〈小手先〉は、刀を手の先で細かく打つように、微妙に機転を利かせることです。
〈相槌を打つ〉は、刀鍛冶の師匠と弟子が交互に地金を打つ状態のことです。槌で打つため、相槌と言われています。
あと、知られている言葉と言えば〈土壇場〉と言う言葉があると思います。土壇場は処刑場のことです。辞書には、
——切羽詰まった場面。進退きわまった場面のこと。
とあります。土壇場に座らされると、もう、首を切られるしかなかったので、ここが最後と言う意味で使われた言葉です。
最後に、最近は使われなくなった珍しい言葉に〈薙刀あしらい〉があります。聞いたことは少ないと思いますが、辞書で引くと、
——薙刀で受けつ流しつするように、ほどよく相手をあしらうこと。
とあります。私は時々使いますが……。
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