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祈りのカタログ・第十九話「音を聞いて強弱を知る」

 筋肉の形は、肉体が記憶する物事によって出来ています。武術を鍛錬すれば、鍛錬した形がシルエットを作ります。鍛錬すると腕の肘から手首までの部分の筋肉が発達します。この筋肉は、主に肩から力が抜けた状態での鍛錬が生み出す形です。
 手の平もぶ厚くなります。手全体がぶ厚くなるのではなく、手の平の真ん中以外の部分に筋肉が付くのです。
 この、手の平の真ん中あたりを〈たなごころ〉と呼びます。不思議なことに、ここには筋肉が付きません。もちろん、まったく付かないと言う意味ではありません。他の部分に比べて薄くしか付かないのです。
 無理のない武術で鍛錬した手の平は、たなごころがくぼんでいて、玉でも入りそうな形になります。この形が柏手かしわでを打つ時に大きな音を作ります。
 鍛えていない人の柏手はパシンパシンと薄い音がします。
 一方、鍛えている人の柏手は大きくて迫力があります。手を叩いただけであたりに音が反響し、まるで建物の隅々が振動するかのような印象を与えるのです。柏手の音を聞いただけで、その人がどのくらい霊術にけた人なのかが分かります。この音の響きは、筋肉の形と肉体のコントロールの出来具合を示していて、それは霊力の強弱をも表しているのです。
 結局、霊力と言っても、実際、肉体の微細なコントロールによって得られる力です。そして脳そのものも肉体であるため、体のことと心のことは……それが霊的な種類の力であっても……けして無関係ではないのです。
 時々、祈りや霊的な力は、
「心や霊性の問題なので体とは無関係だ」
 と言いはる人を見かけます。ですが、それは明らかに誤った認識です。どのような力も現実世界と切り離しては成り立たないのです。その心の世界と現実の世界を結びつけるものが肉体でしかない以上、無関係ではないのです。
 どのような不可思議な現象を起こそうとも、脳の中では、厳密であり、かつ、生物的な計算処理が行われています。そして、まだ知られていない種類の方法やエネルギーを使って、それらの複雑な計算処理や手順を現実世界に投影しているだけです。

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