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播磨陰陽師の独り言・第490話「名前をつける人々」

 入社して、はじめて会社へ行った時のこと、上司が、まず、
「このコンピュータ、パトリシアって言う名前だから……」
 と、先輩たちより先にパソコンを紹介されました。シャープのMZ80Cと言うパソコンでした。まだマイコンからパソコンと呼ばれるようになったばかりの時期でした。
 ちなみに〈マイコン〉とは〈マイクロコンピュータ〉の略です。正式には〈ワン・ボード・チップ・マイクロ・コンピュータ〉と言います。ひとつのボードの上にひとつのCPUが載っているだけのコンピュータを意味していましたが、人によっては〈マイ・コンピュータ〉の略だと思っていた人も多い時代でした。
 パソコンの方は〈パーソナル・コンピュータ〉の略です。当時、パソコンには〈ミニコン〉とか〈ワークステーション〉とか色々な呼び方がありました。
 そのことを思い出すたびに、
——最近、パソコンに名前をつける人……そうそう居ないよなぁ。
 と思います。
 日本人は工業用ロボットにも名前を付けると言います。工業用どころか、ルンバに名前を付ける人も多いと言います。これは、わが国に限ってのことです。
 日本では何にでも名前を付けます。こちらは古い風習で霊術を基本としています。
 名前をつけられた霊的なものは、つけた者に従う決まりがあります。ただし、これは霊力の強い者につけられた場合のことで、弱い者につけられたからと言って、従う義理はありません。
 また、この延長線上に、親が子に名前をつける行為があります。しかし、昔は名前のない人も多かったのです。女の人は特に名前のない人が多く、身分の高い人ほど名前がありませんでした。
 名前を持たない人たちはどうしたのかと申しますと、幼い頃は〈誰それの娘〉と呼ばれ、結婚すれば〈誰それの妻〉。子供が出来れば〈母〉と呼ばれるので、あえて名前がいらなかったのです。
 もちろん名前のある女性も多かったそうです。特に身分の低い女性は呼び名がなければ高貴な人に仕えることは出来ませんから……。

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