播磨陰陽師の独り言・第二百九十九話「日本語の不思議」
英語圏の人にとって、日本語は一番難しい言語だそうです。最大カテゴリーの5に相当する言語は日本語しかありません。と言うことは、日本人にとって英語は最大に難しい言語と言う訳です。
日本語の読み書きの難しさは、文字の多さにあります。平仮名と片仮名と漢字を駆使して表現される文章は、英語のアルファベットに比べて何百倍もの文字を覚える必要があります。平仮名は覚えやすいそうですが、片仮名はなかなか難しいと言います。
特に〈シ〉と〈ツ〉や、〈ソ〉と〈ン〉の見分けがつかないようです。
漢字は確かに難しいですが、特に〈医師〉と〈石〉のような同音で違う意味の漢字が難しいそうです。
また、漢字の数と平仮名の数が合わない言葉、たとえば〈百舌鳥〉は漢字三文字ですが、平仮名だと二文字しかありません。
そして、さらに難解なのは〈海月〉のような〈くら〉とも〈げ〉とも読まない漢字の組み合わせのものだと言います。
これらは確かに不規則な、しかも、ルールのないものに思えますが、振り仮名をつけることが常識だった頃の名残りです。
漢字は映像だと思います。
たとえば〈海月〉と書いた時は夜の海を漂うクラゲを意味しています。それを〈水母〉と書いた場合は昼間の海を漂うクラゲを意味しているのです。だからこの漢字、単独では〈くら〉とも〈げ〉とも読まないものを組み合わせているのです。そして振り仮名をつけて〈クラゲ〉と読ませています。
振り仮名は、基本的にはどの漢字にどんなものを振っても良いことになっています。江戸時代の文章には〈天窓〉と書いて〈はげ〉と振り仮名をつけているものがあります。
これは、
——頭に四角いハゲがある。
と言う意味です。
たとえば〈刺殺〉と書いて〈ぐさり〉と擬音を振っても良いことになります。これだと、
——ぐさりと刺し殺した。
と言う意味になります。
また、オノマトペも難しいそうです。オノマトペとは擬音語のことです。中でも最も難しい言葉は〈シーン〉と言う静けさを表す言葉です。外国にはこの概念がなく、ないものは丸暗記するしかないそうです。
そして、外国語では、まったく表す言葉がないものもあります。それは〈口寂しい〉と言うものです。この感覚は外国にもありますが、表現する言葉がなくて、歯痒い思いをしていたそうです。それが、日本語で表現出来ることを知り、多くの外国人が喜んでいました。
これらのことを知るたびに、
——日本語はつくづく不思議だなぁ。
と思います。現代語でも不思議ですが、古語も含めると、さらに不思議で複雑になります。
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