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播磨陰陽師の独り言・第三百五十話「怪談でありえないこと」

 よくある怪談を見たり聞いたりしていると、
——これはあり得ないなぁ。
 と思うことが、しばしばあります。
 たとえば、
——幽霊に刃物で殺される。
 とか、
——幽霊に掴まれた足が血だらけになる。
 と言ったものです。
 確かに人を殺す類の霊的なものはいます。しかし、それは幽霊ではありません。幽霊程度の霊力では、せいぜい足を掴んで水中に引きずり込むくらいが関の山です。もちろん、目撃した人間の側で勝手にびっくりして死ぬことはあります。しかし、普通は死にません。幽霊は殺人事件を起こさないのが霊界の基本ルールです。
 主に人を死に至らしめる霊体は〈怨霊〉の類です。しかし、これらは特定の人しか襲いません。恨みの対象となる人物や、その子孫にか祟らないのです。たがらと言って、刃物を持って、直接、刺したりはしません。亡霊がいちいち殺人事件を起こしていては、解決しない事件ばかりになってしまいます。たまには亡霊が原因となり人が亡くなることもありますが、こちらは不審死や自殺として片付けられるそうです。
 外国によくある〈ポルターガイスト現象〉は、わが国では天狗の仕業として知られています。ですので幽霊が原因ではありません。
 また、外国人が言うような〈悪霊〉が原因となる現象でもありません。どちらかと言うと〈妖怪〉の仕業です。
 もしポルターガイスト現象が幽霊の仕業だとしたら、たくさんの幽霊が包丁なんかを投げる姿が見えて、何だか滑稽に感じるかも知れません。
 ポルターガイスト現象は、昔はパニックになった人間が、無意識の内に超能力を発揮して物を移動させる現象だと言われていました。超能力と言うと語弊がありますが、元々人に備わっていた能力のひとつで、不思議な力ではありません。パニックがおさまると現象は消えるそうです。火事場の○力と同じようなものです。だからポルターガイストは純粋な霊現象ではありません。
 わが国ではポルターガイスト現象は極めて少ないです。その理由は、頻繁にパニックにならないからです。しかし、記録にはポルターガイスト現象が残されていて、〈天狗のつぶて〉と呼ばれています。

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