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播磨陰陽師の独り・第二百八十八話「亡霊の知能」

 亡霊の知能。何をさして知能と呼ぶのかは別として、亡霊は、少し頭が悪いです。これは生きている頃に比べてと言う意味です。同じ人でも、生きている時と、死んだ後では、知能そのものに開きがあります。
 亡霊には生きた脳がありません。人は脳だけで物事を考えている訳ではありませんが、知能の大半は脳の機能が生み出すものです。だからか、亡霊になると、少し知能が低くなるのです。
 亡霊は感情でのみ物事を考えます。しかし、感情に任せて暴走するだけなので、それを〈考え〉と呼べるかどうかについては分かりません。
 多くの場合、脳を持たない生き物も知能を持ちます。場合によっては、複数の個体で神経回路のようなものを作り出し、全体で知能を持つこともあります。亡霊たちも、複数である種の神経回路を作り、思考することが出来ます。しかし、単独では、知能は生きていた時より劣るのです。どのくらい劣るかと申しますと、まず、新しい物事を考えることは出来ません。それと、判断するまでの時間が、とても遅いです。人の優柔不断は大人しいですが、亡霊の優柔不断は感情が激しく、とても厄介です。人の命を何とも思わないところもあります。ですが、直接、人を殺すことはありません。もちろん、亡霊だけに限ったことで、怨霊や化け物は人を殺します。怨霊の類は事故死に見せかけて殺すことが多いです。化け物の場合は、死体すら残りません。もし、残ったとしたら、何か正体不明の獣に喰われたような残骸だけが残ります。だから殺人現場のようにはならないのです。
 幸いなことに、怨霊も化け物も、頭が少し悪いです。複雑な戦略を考えて行動したりすることは出来ません。前に何か言ったとしても、それを忘れて、気分次第で別なことを言ったりします。プライドは高いです。だから、ただの亡霊のクセに、神のように振る舞うこともしばしばです。生きる者を見下すのはもちろんのこと、死者としても身分が低いにも関わらず、他の死者より偉そうに振る舞います。
 亡霊の上には死霊・悪霊・怨霊・御霊ごりょうと位が続きます。亡霊の下にいるのは亡魂と呼ばれる人魂だけです。幽霊は、これらの呼び名の中の、若くて美しい女性の呼び名です。
 化け物たちは、元々、年老いた動物がはくを得て化けるものです。いくら年老いてと言っても、基本的な知能は人の比ではありません。中にはキノコが化けたのとかもいて、極めて頭が悪いです。かろうじて人の言葉を理解して、うまく扱えるだけの化け物もいます。しかし、ほとんどの場合、何も考えていません。賢そうに見えるのは、ただの勘違いです。

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