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祈りのカタログ・第四話「魔物の独り言」
実際、魔物たちは、自ら〈魔物〉と呼ばれることを好みます。
——他の呼び方が、好きではない。
と言うのが、正しい表現なのかも知れません。しかし、人は時々奇妙なモノに出会うと、
「あれは、狐じゃろう」
とか、
「いや、天狗さまに違いない」
と言うような、勝手な推測をまじえて話してしまいがちです。それを聞いて、当の魔物たちは、
「それじゃないし」
とか、
「そう、見えたのね」
と、ひとつりで、つぶやくことになります。
最後には、
「魔物と呼んで欲しいものだね」
と、誰も聞いていない空間に向かって、叫ぶのです。
魔物が、ひとりごとをするのは、人の近くにいても、その人に見えていないからです。せっかく、手を振っているのに、誰にも見えていないから、寂しげにひとり、つぶやくのです。
魔物は、ただ霊的な等級が低いものでしかありません。霊的な等級が高くなると〈守護霊〉とか〈精霊〉と呼ばれます。さらに、高くなると〈神〉とも呼ばれる存在なのです。つまりは神と同じものです。彼ら魔物の持つ意識の方も、それほど神と変わることはありません。人の都合で、魔物とか神とか呼ばれ、無闇に区別されているだけなのです。
人間でも、役職が違うだけで、同じ会社に属している人は〈当社〉と自分の会社を呼びます。社長であろうと、ただの平社員であろうと〈自分の会社〉と言う意識は、彼らと似たものだと思うのです。
神と魔物の意識も同じで、自分が、人から、どう呼ばれているかではなく、自分自身をどう思っているのかによってアイデンティティーが確立されるのです。だとしたら、自分を神だと思っている存在に、
「お前は魔物だ」
と言えば、そのものの気分を害してしまいかねません。そして、仕返しされるので厄が来ると言う訳です。〈魔物の仕返し〉には様々あります。しかしどの場合も、人を、直接、殺すことはありません。規則違反になるのです。ただし、結果として誰かが死ぬようなことなら、〈不可抗力〉と言う意味になりますので許されています。魔物が作り出す不可抗力から、人が自分や誰かを守るため、祈りの技法を使うのです。
魔物は、人の心の中で生まれて、やがて、人の心の外へ出て、外界に投影される種類のものです。
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