播磨陰陽師の独り言・第517話「歌舞伎って」
最近、ふと、思うこと……。
——歌舞伎って、江戸時代の人々にとってはアニメだったんだよねぇ。
もちろん、今では時代劇のひとつですが、当時の人々は時代劇だと思って見ていた訳ではありません。そもそも時代劇の定義が違いますし、服装からして現代劇のひとつだったのです。しかし、リアルな演劇……と言う目で見ていたようでもないようです。
歌舞伎はあくまでも錦絵が飛び出たようなものとして考えられていました。元々絵だったものを演者が演じているので、キャラクター的な要素が強い服装や化粧をしています。
当然ですが、歌舞伎が全盛期の江戸時代は、皆、着物を着ていました。観客席の人々はリアルな着付けをしていたのですが、歌舞伎の俳優たちの着方は、観客と比べると少し妙な感じです。持ち物も大きめに作られていて、動きも大袈裟な感じがします。
歌舞伎は江戸時代そのままの雰囲気と思われがちですが、けしてそうではありません。江戸の人々から見ても、独特な世界観で造られているのです。もちろん、背景は絵です。しかもカラーの絵ですが、けしてリアルなものではありません。いわゆる〈書き割り〉と言うやつです。
時には人形浄瑠璃風の演出までありました。
以前、大阪で歌舞伎を観に行った時、玉三郎さんが八百屋お七の人形に扮していて、黒子たちが操作している演出でした。火の粉が飛び交う中を梯子を登って行く姿が美しかったです。
江戸時代は、実際に斬り合いを見ることが出来る世界でした。打ち首を晒しているのも見ています。しかし、歌舞伎でのこれらの表現は、リアルなものとは違っています。アクションなど大見得を切りながらの殺陣となります。今のアニメも同じように大見得のようなアクションを行ってから戦っています。技の名前などを叫ぶのです。
歌舞伎がアニメと言うか、アニメが歌舞伎の進化系のような感じもします。言い方を変えれば、江戸時代のひとが観たかった世界……錦絵がそのまま動くようなものを、現代になってようやく観ることが出来るようになったとも言えます。そして、江戸の人々の想像力が、ようやく現実になったとも……。
博多座で『めんたいピリリ』を見た時の小道具や背景はリアルでした。こちらはもちろん現代劇です。江戸時代の人々が歌舞伎を観るのと同じ感覚だとは思いますが、服装も着こなしも、ごく普通に見えました。
歌舞伎と言えば、大阪の歌舞伎座に行く時は必ず蟹道楽の弁当を買ってからでした。いつもは蟹道楽のお弁当は買いませんが、歌舞伎の日は少し奮発して、こちらを買い求めるのです。歌舞伎では、今も昔もお弁当を食べる時間が用意されています。テレビでアニメを観る時は、何か食べているので、江戸時代の人々が歌舞伎を楽しむのと同じですね。
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