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播磨陰陽師の独り言・第百九十九話「日本語のルール」
昔からある、本来の日本語のルールはこうです。たとえば、〈大箱〉と言う漢字に〈パソコン〉と振り仮名を振ったり、〈帳面〉と言う漢字に、同じく〈パソコン〉と振っても良いのです。
このような振り仮名付きの漢字を目にしたら、昔の人はどう読むでしょう?
最初の漢字は、大型のディスクトップパソコンをイメージすることでしょう。そして、次の漢字は、ラップトップコンピュータをイメージしながら読むと思います。
本来の日本語の規則に従うならば〈長方形〉と言う漢字に〈スマホ〉と振ったり、〈折畳〉と書いて〈ガラケー〉と振っても良いことになります。
実際、江戸時代の文章には〈天窓〉と書いて〈ハゲ〉と振り仮名を振っているような表現がたくさんあります。この時の漢字は、言葉としてではなく、イメージを表す記号として使われています。このような使い方は、現在でも一部に残っています。
たとえば〈クラゲ〉を表す漢字には〈海月〉と〈水母〉があります。この中のどの漢字も、単体では〈くら〉とも〈げ〉とも読みません。〈海〉と〈月〉が、あるいは〈水〉と〈母〉が揃った時のみ〈くらげ〉と読むのです。
もし、漢字がイメージを表す記号ではなく、読み方の決まった意味のある文字だったとしたら、このような例外は存在出来ないのです。
ちなみに、このクラゲを表す漢字の内、〈海月〉は夜の水面に浮かぶクラゲのことです。もうひとつの〈水母〉の漢字は、昼間の水面に浮かぶクラゲのことを意味しています。
どちらの漢字も、昔は覚えなくても良かったのです。なぜなら、どのような難しい漢字であっても、必ず振り仮名が振られていたからです。
漢字の基本は、振り仮名がついている書き方です。漢字の意味そのものに惑わされることなく、すんなりと、振り仮名を読めば良かったのです。そして、漢字を見て、その言葉が意味するイメージをつかみます。
その意味においては、われわれが使う日本語の表記は、映像言語と言う特殊な表現を行います。この特殊性がある故に、特異なほど天才的な人間に育つのです。しかし、その特殊性を無視して、現在の使用方法のみを推し進めたのは、文化的な理由や学術的な理由からではありません。単に、新聞社の製作コストの問題で切り捨てられたのでした。
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