もう少し髪を伸ばす
髪が胸あたりまで伸びた。半年で10cm以上伸びていると思う、なかなかのペースだ。ヘアドネーションをやっているので、ショートヘアの時と髪が腰まである時がある。次で3度目になる。
7年前、もうそんなに前になるのか、その時付き合っていた人の妹が小児がんだった。私と彼が出会った頃にはもう完治していて元気に学校へ通っていたけれど、闘病中は抗がん剤で髪が抜けてしまったという。
柔らかくツヤのある綺麗な髪であることが、特に自慢できるようなことのない私の唯一の取り柄ともいえる。少し栗色がかった髪色も気に入っていて、人生で一度も染めたことがない。褒められることが嬉しかった。髪がアイデンティティにも関わっていて大切であることはよくわかっている。だから当時腰まであった髪を切って、子供のウイッグを作ってくれる団体へ寄付した。
最初は何か力になれることがあればと思って始めたけれど、最初のヘアドネーションから3年後、生きているのがなんとなく辛く感じられるようになってきた。ままならない日常は特に変わっていないはずなのに、加齢による体力の低下だとか何か別の要因で、生きる気力が削がれることはある、きっと誰にでも。
それからは逆に、私がヘアドネーションに救われるようになった。生きていれば髪は伸びる。生きるのをやめたらもう身体は残らない。その単純な事実に支えられて、髪を寄付することが、髪を伸ばした数年の、辛かった日々をも肯定してくれるようになった。顔も知らない子供たちが生きたいと願ってくれることが、私を生かしてくれるのだ。
生きていてよかったのかはわからない。これからの人生、辛い時間と幸せな時間のどちららが長いのかもわからない。それでも髪は伸びて、必要としてくれる人がいる。私はきっとまた髪を伸ばす。