指導者2年目終盤

このnoteでもたまに触れているが、私は母校の中学校で外部指導者を務めている。「コーチ」といっても長期短期のトレーニング計画からチームマネジメント、マッチプランまで実質1人でこなしているから全権監督みたいなものだ。

前提として、その中学校は中高一貫の男子校であり、大学進学実績では間違いなく全国で5本の指に入る学校である。裏を返すと小学校で6年間みっちりと鍛えられた選手はおらず、たまに練習よりも塾を優先してしまう部員がいる学校だ。

今の状況はというと、中学3年生のラストの大会の開幕を今週末に控えている。私は彼らが入部してきた時から指導を始めたので、今回の大会でその成果が出ることとなる。

昨年度は上級生の数が少ない中で、チームとして8年ぶりに区大会を突破することが出来た。今年は最低限それと同等の成績を残すことがノルマとなる。

前置きが長くなったが、この記事では具体的なトレーニングメニューや戦術について語る気はない。サッカーについて発見したことと、この2年間での私自身について書いていこうと思う。

昨年度の勝因

前述の通り、決して戦力のリソースに恵まれていた世代ではない中でも勝てた要因は「原則の徹底」にある。

私がトレーニングで徹底して植え付けたことはコンパクトなゾーン守備だ。ボールの位置を基準とし、味方の位置(横の繋がり、縦の連動)を必ず意識させる。

この原則を染み込ませたことで、試合によって非保持の配置を変えたり、1人に特殊なタスク(マンマーク)を負わせたりしてもチームとしての骨格は揺らぐことなく戦うことができた。

1点差ゲームを立て続けに制してトーナメントを勝ち抜く要因となった。

今年度の取り組み

代が変わって秋の新人戦。前年度のソリッドな守備からのカウンターに味を占めてしまった私はプレミアリーグの序盤戦で流行っていた5−3−2の採用を決断。

その大会で準優勝するチームからドローをもぎ取ったものの、他のにチーム相手に取りこぼしてグループリーグ敗退。

ここで、選手の意向も汲み取り、ボール保持に力を入れてトレーニングすることを決断。テンポの緩急、背後に意図的にスペースを作り出すことを植え付け、再現性を持った擬似カウンターを繰り出したり、格下相手には保持→回収のサイクルを回せるように取り組んでいる。

この成否が分かるのは今週末の大会からだが、この2年のトレーニング過程である程度ポイントがわかってきた。

トレーニングの肝

サッカーをプレーする選手は戦術ヲタクではない、ということと、実際のプレーには思考よりもメモリーから導かれる反射の方が直結する。この2点が非常に大切になる。

だからこそ、常に指導者はトレーニングメニューを通じて「習得して欲しい意識や戦術」を持つと同時に「選手への伝え方」、つまり言葉なのか、それとも制約の設定やコートの大きさ形を常に両輪で意識する必要がある。

また、要素還元的な練習よりも、局面と盤面の状態が常に移り変わるサッカーというゲームの特質を出来るだけ再現したメニューの方が実戦向きだし、当然ながら全てのメニューが1日の中でも(ミクロ)1年の中でも(マクロ)つながっている必要がある。

大きな気付きとしては、練習メニューに関わらず、指導者、つまり私の指示の仕方がプレーに反映されるということだ。これは恐らく選手たちのメモリーに残るからだろうが、そのためにチームでいくつかの共通言語を共有したことはポジティブな影響を与えたように思う。

ここまでまとめると、共通言語という小さな単位から、ゲームモデルや原則といった大きな単位まで、指導者の意識や工夫によって無意識のうちに選手の個人・集団の行動をコントロールすることが可能になるということだ。良くも悪くも指導者の責任は重い。

指導者である私の思いの変化

最初はもちろん、最先端の戦術を植え付けて、「弱くても勝てます」を体現しよう!と意気込んで着任した。ただ、今はもっと広く見られるようになったと思っている。

サッカーを通じて人格形成を!なんて言う気はサラサラない。しかし、サッカーを通じて学ぶことの手助けは出来るのではないかと思っている。

私はこのnoteでも主張し続けている通り、サッカーに関して試合を観たり書籍や記事を読んだりといったインプット、そして自ら思考をし、文章を書いたり試合の考察をしたり指導したりとアウトプットも行うことで、他分野の思考や勉強にも活かされている。

囲碁や将棋、ディベートを選べば全国8強ぐらいには入れる頭脳の生徒たちがわざわざサッカー部を選んでいるのだから、彼らが現在や将来、他の分野で戦う時にサッカーで得た経験を繋げて活かして欲しい。

自分自身が(勉強と比べて)苦手なことの習得過程、チームを構築するフレームの理解、サッカーというゲームや相手を攻略するということ、これらを彼らが内在化し、別の分野で質の高くオリジナリティのあるアウトプットに繋げて欲しい。

そんな思いを持って、日々の強化であったりコミュニケーションをとったりということに向き合っている。

もちろん、このように本気で選手たちやチームと向き合う経験によって、自分自身の総合的なアウトプットの質を高めることが出来るはずだし、実際に人を相手にする思考の質は日常生活においても高まっていると実感している。

選手達に、そして自分自身に程度の差はあれど確実に影響は与えられる時間を過ごしている以上、自分自身の枠組みを作り替えながら、そして選手とチームに向き合う姿勢を微調整し続けながら、まずは目の前の大会で最大限の結果を得ることに注力し、3年目に備えたいと思う。


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