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【屏風とビー玉】 Vol.1 猫撫編

三度、ヌードモデルをさせてもらった。
そのうち2枚の写真を展示に出してもらったし、
次の約束も一ついただいている。

俺の2020年の第4クォーターは、その記憶で一杯になると思う。

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ヌードは、3年ほど前から撮りたいと思っていた。

でも縁がなかった。
第一「カメラマンを探す」という発想がなかった。

怖いのは当然あった。なんせヌードだ。シャレにならん。

だから、
定期的に自分の言葉でしっかり発信していて、
その作品が素敵で、真摯で、
その方が「男性のヌードを撮ってもいい」と宣言するという、
気の遠くなるような機会に遭遇するまで、ぼんやりと自分の体を眺めていた。

そんな絵に描いた虎が屏風から飛び出してきたのが、猫撫さんという女性だった。

彼女がインタビュー+ヌード撮影企画を始める2ヶ月ほど前から、偶然フォローしていた。彼女が初秋にnote.企画を発表したとき、目が点になった。すぐに連絡した。

場所は大阪だったが、遠くは感じなかった。
指定された京橋駅で落ち合った。

現れた彼女は虎というよりも白虎に近い感じで、怖さは無かった。
彼女の前で、敬虔な気持ちになった。

「飲み物買って行きますか?」
「はい」

ファミマに入って、黒烏龍を買った。

インタビューは不思議と安らいだ。エロに興味をもったいきさつとか、29で日舞を始めたきっかけとか、どういう撮影にしたいか、などを話した気がする。

彼女は、屏風にいた頃から知っていたそのままの彼女で、俺を作品にしようと懸命になった。ただ、いかんせん俺はペーペーで、彼女の指導を必要とした。

やっと撮ってもらえるんだ。

そう思って、今まで涙で流さずに溜めた地下水脈を呼び起こそうと、ポーズを取った。全身全霊で自分の深部に至ろうとした。ある。そこに流れがある。あとは表に出して、晒し出すだけ…。そこではたと我に帰った。

あれ?

俺のポージングは、慣れ親しんだ日本舞踊の技術で埋め尽くされていた。
こうやって体をねじればいい
腱はしっかり伸ばしたほうがかっこいい
首はひねりすぎないほうがいい…

なんか自分、冷静だし、思ってた雰囲気と全然違うぞ?

もっとこう…ひめたる俺のほんしつを…女々しかったり、罪深かったり、背徳感ンヌ…そんな諸々を暴露して記録するつもりで臨んだ撮影は、全く別の方向へ突き進んだ。

次第に面白い写真が撮れ始めた。楽しくなってきた。ここで次のアイディアに悩んだら、休憩モードになっちゃう。進みたい!猫撫さんもヒートアップしてるし!

こんなところに俺の持ち味が!?もっといい写真が撮りたい!
でも表情とか難しい…

なんて調子で撮影が終わった。ある意味、普通のテンションだった。

恥ずかしくてあまり目を向けられなかったので、せっかくお会いしたのに彼女の顔はあまり覚えていない。カメラを向けていたとき、マスクしてたっけ?そこもぼんやりしている。かけてもらった言葉と、彼女の気配をはっきり覚えている。

アマゾネスなカラフル色彩のマーブル模様を濃縮して黒く光るビー玉のような人だ。それでいて、墨で描いた屏風の虎のような人だった。

カメラを向けられて、ビシバシ感じていた。そんな彼女の支配感に、いつもなら組み伏せられ、拘束され、なす術もなく…となるところだったけど、今回は違った。彼女の極彩色を浴びながら、俺は踊った。

「ありがとうございました」
「お疲れ様でしたー」

彼女は竹藪の奥に音もなく消えていった。


でも現金なもので、俺の体はその時のことを克明に刻んだようだった。

まあ一応ラブホに男女二人だったし、俺は裸だったし色々と曝け出したし、お互い汗かいてたし…。その辺は中学の時からあまり変化ない。写真はモノクロだったけど、体に残った性欲には極彩マーブル模様が残っていて、渦巻いて、地下水脈に再び流れ落ちていった。残るものは微かでいい。その匂いを辿れば、また辿り着ける。

技術的な面で言えば、被写体としては未経験だったけど、そこを日本舞踊がかなり助けてくれた。無論、踊りというのは自分のかっこいい姿を人に鑑賞してもらうための技術だ。

結果的に、日々の稽古が俺を助けて、地下水脈を冷静に深く潜っていくことができた。曝け出すだけが被写体じゃないんだな、と思った。これが最初の収穫だ。

程なく彼女からデータが送られてきて、俺はその写真を好きになれた。予定が落ち着いたら、次は俺から募集してみよう、と思った。

そして11月の撮影が2件、決まった。