彼の動向を考える。
私のスマートフォンにはGPSアプリが入っている。
若い私の動向が心配との事で彼たっての願いだった。
そのアプリはお互いの位置情報が丸分かり、それどころか課金をすれば行動履歴も分かると言う物だ。
私自身は位置情報を見られる事に抵抗はなく、知る事で彼が安心するならそれで良いと思っていた。
ある春のこと、彼が倒れた。
私はその日、大好きなハリーポッターシリーズのグッズの販売会があり朝から吉祥寺の東急百貨店へ向かっていた。
一緒に住んではいる物の仕事をしている時間も休みもばらばらなので
家を出る際には連絡するようにしている。
「行ってきまーす」とメッセージを送って家を出た。しかし、一向に返信がこない。
いつもは返信早いのに今日は来ないな、忙しいのかなとふと思ったのは2時間も経った後だった。
それまではどのグッズを買うか、どの杖のレプリカを買うかで頭がいっぱいだったからだ。
吉祥寺の駅を降り目的の催事場へ向かう間、
ふと思い立ち今まで滅多に見なかったGPSアプリを開いた。
位置情報は〇〇病院とあり、まさか…と思い電話を掛ける。応答がない。
東急百貨店に着きエスカレーターを上がる間も掛け続けた。
普段電話なんかしない私がここへ来ての人生初、いわゆる“鬼電”。
電話を掛けながら足速に販売会を周り、欲しかった杖のレプリカを手に取りお会計を済ませた。
おそらくその販売会で「お会計急ぎで!」と言ったのは私だけだろう。
念の為早く帰ろうとエスカレーターを降りた。その時、やっと電話が繋がった。
私はエスカレーター横のベンチに座り込み泣き崩れた。
おそらくその日、杖が入った箱を抱きしめ咽び泣きながら電話をしていたのは日本中探しても私だけだろう。
「いや〜なんか倒れたみたい〜」と笑いながら言う彼。
また連絡するからとりあえず家にいて欲しいとの事だった。
笑い事じゃないわ!と思いながらもひとまず生きてて良かったと安堵した私はなんとか泣き止み、すぐ病院まで駆けつけようとした。
しかし、私は恋人であり。夫ではない。
病院には入れない?もし入れたとして彼の親族がいたらどうする?職場の方がいたら?
本当に家で待つ事しかできないのか?
片道おおよそ30分、頭の中をぐるぐるさせている間に家まで着いていた。
ソファに座りこれからどうしようと考える。
何を思ったのか杖の箱は抱きしめたまま。
再び電話があったのは数時間後。
その間の記憶はあまり無い。
電話で告げられたのは狭心症による発作で倒れた事、
今はとりあえず大丈夫でご飯も食べられている事、変えの下着は売店で買えるから見舞いは要らない事、下の毛を剃られた事、
明後日には退院して手術はまた後日する事。
再び安堵したが余計な情報を入れて来たせいで安堵の方向が迷子になった。
今は手術も無事に終わり、半年に1回の検査と薬を飲みながらの治療に勤しんでいる。
倒れてからと言うもの職場に着いたら私に連絡をする事、GPSアプリはこまめに見る事が私たちのルールとなった。