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【怖い話】朝5時のインターホン
最近、早朝にインターホンのような音がして目が覚める。
だが、我が家のものではないし、近所でも聞いたことがない。「ピーンポーン」という澄んだ音ではなく、
「ぅいーんぅおーん」
という、どこかくぐもった、不鮮明な音。耳栓をしていても貫通してくる。何度も繰り返されるうちに、あの音が怖くなった。
布団に入るたび、またあの音で起こされるのではないかと身構えてしまう。日常がじわじわと侵食されていく感覚。もう限界だった。
意を決して、真相を確かめることにした。
朝5時、空はまだ暗く、街灯だけが異様に明るい。
凍える手をポケットに突っ込みながら、音の正体を探して家の周りを歩いた。
しばらくすると、道の奥に丸い影が見えた。
人か?
近づくにつれ、それは次第にはっきりとしてきた。そして、顔が見える距離になった瞬間、背筋が凍りつく。
ぶよぶよと肥えた子供が、ゆっくりと辺りを見渡しながら、こちらへと歩いてくる。だが、おかしいのはそこではない。
口だ。
ありえないほど大きく開いた口。その内部には、無秩序にびっしりと生えた歯。生々しく、狂気じみた笑みを形作るそれが、異様に白く輝いて見えた。子供は、こちらの存在に気づくと足を止め、口の端をさらに吊り上げた。
「い い い ぃ ーー よ ぉ お お お お」
耳を裂くような異音。喉の奥から絞り出されるような声。
その瞬間、意識が途切れた。
ーー目を覚ますと、そこは自宅のベッドだった。
時計を見ると午前8時。夢だったのか?連日の寝不足のせいで、夢と現実の境界が曖昧になっているのかもしれない。
だが、もし夢だとしても構わない。あいつから逃げられたなら、それでいい。安堵の息を吐きながら、ゆっくりと体を起こした。
その瞬間。
真横に、あの子供が立っていた。
にっこりと笑い、
「い い い ぃ よ ぉ お お お お」
耳元で囁かれた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
――後に知った話だが、昔この辺りでは、かくれんぼ中の児童が忽然と姿を消す事件が相次いでいたらしい。
今でも、インターホンの音が怖い。