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ライブレポの前に手術レポですみませぬ。

岡山のライブが決まってから、パタパタとパズルのピースが埋まるように、京都、広島、滋賀と会場や内容が決まってゆきました。けれど左手のガングリオンもすくすくと悪化し、過去最大サイズに成長(汗)。ツアー乗り切れるのかしら…

育ち中の手首甲側のガングリオンは、神経や骨を圧迫。指のしびれ、動きの遅れ、痛みなどが出ていた。


もう手術しないとダメかもしれない。

とは、思ってはいた。この左手のガングリオンはもう18年、なんとかやってきたのだ。何人ものお医者さんに診てもらってきたけれど、「切るしかないが、切るのはリスクが高い。また元のようにギターを弾けるかは分からない。騙し騙しやっていくのが無難」の診断しかなかった。だからちょこちょこ病院に行き、注射で中の滑液を抜くのを何年もやってきた。

もともとわたしの手は、小指が生まれつき短い。バランスが悪い指で、ただでさえ大変なボサノヴァのコードを押さえるのだ(大人の男性でも手を痛めることがある)。人より余分に手をひねらなくてはならない。切り取る手術は確かにリスクが高いだろう。長い間、躊躇してきた。

ツアーの二か月くらい前だったか。
いつものように注射で中の滑液をぬく処置を、かかりつけの形成外科でしてもらった。ところが、1週間でもとのサイズに戻ってしまったのだ。テーピングで多少固定していたのに…。ぞっとした。今まで以上に早い。

このガングリオンの中身はヒアルロン酸系のものらしい。なぜなの。肌にいけばいいものを、なんでそこで井戸端会議してんの? あんたたち、ちゃんとお仕事しなさいよ。ほっぺとかおでことか、まんべんなく働きなさいよ。

と、毎回思うのだけれど、あまりの再発の速度に、もう無理かもしれないと思った。弾けなくなっても、賭けるしかないのかもしれない。


この何年も、多くの病院を巡ったけれど、注射で抜くか、切るかの2択。あとは設備と先生の腕。どこに決めたらいいのだろう。来年には踏み切ろう。でもあと少しだけ、探してみよう。わたしはSNSで発信した。左手の状態と、もう少し病院をあたろうと思っていることを。

仕事は心配だけれど、すでにエッセイには現状を書いていたし、誤魔化せるものでもない。クオリティが下がるのなら、歌のみに切り替えるほかない。歌は歌える、ギタリストかピアニストを入れた編成に変更すればよいだけのこと。もしもの時、工夫できる余地はまだある。

優しいみなさんからの情報が集まる。
その中で、これはいいんじゃないか、と目に留まったのが、香川県丸亀にあるクリニックの「切らない手術」だった。ミュージシャンにも向くと書いてある。なにより休ませなくてはならない期間が短くて良さそうだし、再発してもリカバリできそうだ。
2択だった選択肢がもう一つ増えた。これに賭けたい。

来年、仕事を少しあけて行ってみるかなあ…と考えながらもツアーの準備、日々のライブとバタバタしていた。きっとどこかで逃げたいのだ。だって怖いもん。

もう広島ライブの帰りに行ってしまおう!!

わたしはオンライン診療の予約を入れたのだった。


「スケジュール的に、手術が20日か21日しか出来ない…? 20日は手術日なんです。水曜日しかやってないから。実はひとりキャンセル出たんですよ。やれるね、うん、できますよ」

なんと…!!

「でもMRIやレントゲンの検査が必要です。そっちで資料そろえられますか?」

ツアーの出発日まで、あと三日しかない。それは無理そうだ…
うーん…。先生と、しばしパソコンの画面を通して悩む。

はっ。

16岡山ライブ、17岡山ライブ、18広島への移動と休息日、19広島ライブ

ということは、18日に香川に寄ってから広島に行けばいいのでは!? その日は夜にご飯を食べに行くくらいなのだから、余裕がある。岡山から香川、香川から広島はそれぞれ90分ほどだから、可能だ。

「よし、それなら大丈夫。やりますか」

岡山のライブを企画してくださった稲垣さんが「香川まで車で連れていきますよ。広島の日はライブに行くから、次の日に香川まで送ります。どうせ岡山まで戻るんだし」と申し出てくださった。なんてなんて有難い…!!

最後のピースが、パチッとハマった。

観光はあまり出来なくなったけど、これはきっと運命なのだ。ありがとうございます、と、たくさんのご縁に感謝した。迷いはなかった。


岡山ライブの次の日。
朝6:30に稲垣さんご夫妻がホテルに車で迎えに来てくれた。わたしは寝坊して、気づいたら6:40。きゃー!と悶絶しながら朝に使おうと思って出していた少しの荷物をトランクにぶち込み、7:00に宿を出た。フロントのない半分ドミトリーのような宿だったので、わたしが携帯を切ってしまえば呼び出すことができないのだ。もし、目が覚めたのが一時間後、二時後だったら…。

土下座の勢いでごめんなさいして車が出発する。いざ香川!丸亀!! 無事に検査に間に合った。稲垣さんとはそこでお別れ。…のはずが、検査のあいだ、うどん屋さんをめぐっていたご夫妻がわたしをピックアップしに戻ってきてくださった。優しい…!

岡山ライブで鳥取から来てくれたキウイさんがくれた、手と手術のお守り。もちろん連れていきました、ありがとう。心強かったです💕


岡山の児島へ戻ってご夫妻とお別れ。マリンライナーという電車で岡山、新幹線に乗り換えて広島へ。

手術当日

広島ライブも楽しく終えて、次の日。チェックアウトして稲垣さんの車に乗せてもらい、香川へ。荷物のほとんどを宅急便で送ったとはいえ、トランクはそれなりに重い。大丈夫かな、ホテルからトランクごと発送するべきだったかな……と思っていたら、稲垣さんが宅急便で送るよ、と言ってくださった。もはや神である。今回、岡山ライブを企画してくださった稲垣さんご夫妻が居なかったら、手術までやって、疲労感も酷くなく帰るなんて出来なかっただろう。

病院の近くで稲垣さんと解散。本当に本当に、ありがとうございました。

さあ、手術だ。

腕をだすから、ニットなどは脱いで薄手のTシャツで手術用のベッドに横になる。すると看護婦さんが「気がまぎれるように」とタブレットスタンドをわたしの視線の前に伸ばした。

「どれにします?」
NetflixだったかAmazonプライムだったか忘れてしまったけれど、目の前に動画のサムネイルが並ぶ。

えっと、えっと、何がいいんだろう、ホラーとかヤダし……。あっ、猫かわいい。

「えっと、じゃぁ、この猫ので…!」

島暮らしの猫の動画のサムネイルを、わたしは指差した。

左腕を横にひろげて、手の甲を上にする。これだけでちょっと肩がつらい。先生の作業が見えないように左側には布が掛けられているので、必然的にわたしの視線はタブレットの中のねこだ。

怖い。だってあんな小さいところを……もういっそ、全身麻酔にして欲しい。島の草むらをぐんぐんすすむ、ねこを見る。耳にはイヤホンをつけてくれているから、のんびしたほのぼのBGMだ。ときおり「にゃーん」となく声が聞こえる。おお、よしよし、野生化してるからだいぶ精悍だけど、可愛い。まあまあ可愛い。心はねこ派のわたしだが、ばりばりの猫アレルギーである。

何か表面を撫でているような、左手の感覚。鈍い痛み。何をしてるんだろう。緊張する。
目の前のねこ、塀のうえへ登る。うんうん登りたいよね。

ねこの島の冒険はあっという間に1話が終わった。
「では麻酔しますね〜」先生の声がする。
あっ、今から?!
どうもエコーで色々確認していたようだ。

浜辺のねこは、魚をつっついている。それ新鮮じゃ無さそうだよ?食べて大丈夫?
左手はチクッとした。

眼光鋭く、じっとカメラを見つめる黒ぶちのねこを、わたしも見つめ返す。そらしてはならない。これはわたしとこの子の対、

(とんとんとんとん)

ああっ、掘削!?手のなか掘削されてる!?振動きてるぅぅぅ!!
いかん、ねこだ!ねこをみるんだ!!

右腕は5分ごとに血圧計が膨らみ、計られている。「これから左腕を圧迫しますね」看護婦さんが横へきて説明してくれる。止血しながらの作業らしい。(うろ覚え)

左腕のつけ根にぐーーっと圧がかかる。ううう、苦しい。つらい。

ねこはいまどこだ。すがるように画面を見つめる。
おねえちゃんにカワイイ、カワイイと撫でられているではないか。そして2匹のねこが歩きながら見つめ合う。えっ、なんなの?恋なの?2匹は恋びt

(しゅわわわー)

なんか掘削されてるぅぅ

止血の影響で指先が痺れている。腕がくるしい。左肩まわりが破裂しそうな圧迫感。もはやクロとトラ(勝手に命名)の甘酢っぺー恋の行方はどうでもいい。わたしはぎゅっと目を閉じた。呼吸を整える。耳にはのんきなBGMだけが流れている。

不安と圧迫感の苦しさと、ときおり感じる鈍痛。
目の前の呑気なねことBGM。
なんだ、この状態は。ふふふ、ふふふ。わたしは混沌とした状況に、だんだんと笑いが込み上げてきた。

ああ、なぜだ…なぜねこを選んだのだ。アクションとかサスペンスとか、次が気になって仕方ない映画やドラマにでもすれば良かったのに。

4話目が終わる頃、左腕の圧迫が解かれた。
一気に血の気が戻ると同時に、ビリビリ…!!!と指先まで花火のような痛みがはしる。先生はわたしの手を両手で挟んでぎゅっと握った。ああ、あったかい。そのぬくもりは痛みから救ってくれる神の手のようにも感じられた。(正座のあとのしびれと同じ原理、と後で教えてくれました)

腕を圧迫されて溺れるような息苦しかった時間も、ビリビリした火花のような痛みが和らぐのにも、きっとそんなに時間はかかってないだろう。けれど長く長く感じた。手術時間は90分。予定きっかりに終わった。

左側にかけられていた布がどけられて、マスクの先生と目が合う。「終わりましたよ。やはり典型的なガングリオンでした。しばらく固定してね。色々な患者さんみてるけど、トキタさんはいままで見た人の中でもかなり、手の作りが細いですね。よく楽器弾いてますね、これ(ガングリオン)華奢なひとに多いんですよ」

このツアーで3キロも太ってお腹にはたっぷりの脂肪がのってLサイズなのに、なんということだ。

看護婦さんが「お疲れ様でした」と優しく声をかけてくれる。

わたしはほっとして、潤む目で伝えた。

「ねこは……。選択ミスだったと思いました…」

のんびりとした島のねこは、感じる余地が、ありすぎた。

無事、痛めずかえってこれました。


年が明けたら、また香川へ検査に行きます。
その時は四国ツアーかな!
なんのアテもないので、来て欲しいな!という方がいらしたら、コメントください。ちなみに徳島の半田めんが大好きです。

皆さま、情報や頑張っての応援コメントやメールをありがとうございました!
しばらく固定して、少しずつ動かしてみないと分かりませんが、次の日の今日はさほど痛みも辛くなく、むくみや動かない場所などもほとんどありません(^^)しばらく安静にします。

11月29日 阿佐ヶ谷スタッカートでのトリオライブは、私は歌のみに編成変更になります。
Karen Tokita(ボーカル) 上長根明子(ピアノ) 川満直哉(フルート)
現在満席、キャンセル待ちです。

ライブ情報やご予約は下記へ(^^)
お会いできるのを楽しみにしています。


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Karen Tokita 〜優しいうた・ボサノヴァ〜
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