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年に1度の珈琲の香り
今日も…この日が来た。
年に一度だけ,私がこの喫茶店に来る日。
もうずっと前から変わらない,静かで,落ち着いた空間。
普段,私はコーヒーを飲まない。
特に好きってわけじゃないし,むしろ少し苦手かもしれない。
でも,この日だけは違う。
この日だけは,なぜかコーヒーが飲みたくなるんだ。
苦い。
でも,その苦さが心に染み渡る気がする。
香りは…どこか懐かしい。
この一年の中で,この日だけが特別なんだ。
何も変わらない喫茶店,何も変わらないこのコーヒー。
でも,私の中では少しずつ,何かが変わっていく。
ここに来るようになったのは,5年前のこと。
偶然この喫茶店を見つけて,ふらっと入った。
あの時もコーヒーは苦手だったけど,注文してみたんだ。
その頃の私は,何かを変えたくて,
でもどうすればいいのかわからなくて…
ただただ,迷っていた。」
初めて飲んだこの店のコーヒーは,
苦くて,飲むのがやっとだった。
でも,その一杯が,
なぜか心の重みを少しだけ軽くしてくれたんだ。
今思えば,
あれは自分を見つめ直すきっかけだったのかもしれない。
年に一度だけ,この店で自分と向き合う。
時間が過ぎていく中で,私は変わっていく。
でも,この店は変わらない。
いつも同じコーヒーの香り,同じテーブル,同じ椅子。
変わらないことが,時には救いになるんだろうか?
それとも,私が変わり続けるからこそ,
この場所の不変が安心に思えるのか。
来年もここに来るのだろうか。
そして,また同じように,コーヒーを飲むのだろうか。
変わりゆく自分と,変わらないこの場所。
どちらが大事なんだろう…?
コーヒーの苦さと共に,今日も私はまた,
一年分の重みを軽くして,ここを出ていく。
次に来る時,私はどんな自分になっているんだろう…。
それとも,全く変わらずに,また同じ一杯を味わうのかな。
年に一度の珈琲の香り,それは私に問いかけ続ける。
「あなたは,どう変わっていくのか」と。