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夏風邪(一)

今年の夏もようやく終わり、秋田では窓を開けると寒いくらいだ。

夜勤明けの妻は、疲れ切って熟睡しているようで僕が家に帰ってから、一定のリズムで寝息を立てている。
僕たちは結婚してまだ半年も経たない。小さいながらもリノベーションされた、小洒落たマンションに住んでいる。僕たちの生活はとても順調だ。

僕にとって、特に彼女の寝顔を見ている時間は幸せだ。ずっと見ていたい愛おしさで胸がいっぱいになる。
早く夕食を済ませて自分も早く寝ようと思ったがとりあえず缶ビールを飲むことにした。

ベランダに出て冷えたビールを飲んでいると、夜風がゆっくりと、でも確実に季節を秋へと進めていることが分かる。
あんなに暑かったのに、夏というものは去ってゆくときは案外味気ないんだなあ、なんて珍しく青い刹那を感じる自分に気づいた。

ふいにスマートフォンの通知音が僕を現実に引き戻した。きっとまた後輩からの飲みの誘いだろう、と半ば満更でもない嬉しさでメッセージを確認した。
すると見覚えのないアカウントからのメッセージだった。

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お疲れ様

突然すみません

明日も仕事?ですか
元気にしてる…?
改めて結婚、おめでとう…!!
幸せになってね
ぜったい幸せになってね

身勝手な話です
聞き流してください

最近いろいろ自省して、鬱はもう3年は患っていて、併発してアルコール依存症だの、自律神経失調症、不眠症…笑

それでも
ちゃんと社会人として生きていたくて塾講師になって働いているんだけど、時々なんか違うかな?この仕事合ってるのかな?とか真剣に考えちゃう。贅沢な悩みだよね

そんな中で自分なりに文章を作って公募作品に応募して、この間ありがたいことに賞をもらいました。

それにはちょこっと圭吾からの影響が悔しいけれどあります

実は7年くらい前から好きでした笑
うけるよね笑笑

ごめんね、結婚したばかりの人間にそんなこと言ったって仕方ないのに笑

でも最近、少し自分を抑えられなくて、時に別の世界に行ってしまいたいと耐え難いくらい望んでしまうんです

だから、言いたいことは言える時に言うべきだって今更になって思いました

それだけ!言い逃げみたいになってるけど笑

またいつもの中学のメンバーで集まる機会があったとしても、私は行けるか分からないけど…
これだけは言いたくて笑
身勝手な独り身アラサーのつぶやきだと思ってください

以上!!言うことなし  返信不要だよ
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僕は呆気に取られて、持っていた缶ビールをベランダの床に落としてしまった。缶の中身は半分くらいまだ残っていた。落下音は静かな夜には異様に大きく聞こえた。僕は何が起きているのか逡巡し、あわてて缶ビールを拾い上げた。
こぼれたビールは、歪んだ濃い灰色の線を描いて床をじりじり進んでいった。
進む先に何があるんだろう…と、ふとこの夜が何かの知らせかのように思えた。

窓を閉めて部屋に戻ると、妻が起きてリビングのソファに腰をかけていた。
「帰っていたんだね。お疲れ様。ずっと寝ちゃってたよ。」と眠たそうな、でもいつもの笑顔で僕に微笑んだ。
彼女の存在が幾分か僕を暖め、安心させた。
「ありがとう」僕もなんとか口角を上げて何でもなかったようなふりをした。

しかし僕の心は突然の異邦人に驚かずにはいられず、嫌な予感すらしていた。何かこの幸せな新婚生活を壊すものだったとしたら、とても怖い。
一方で、気になる言葉も散見された。もう会えないということまで仄めかされていたのだ。
「7年前から好きだった…?」
「鬱病を患った…?」


その後も僕は妻と他愛もない話をしていたが、その夜の会話を全く思い出すことができない。

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