ユメヲミタ 1
夜勤開けで夕方まで寝ていた俺は、突然思いもかけないことで起こされることになった。部屋の中に、きな臭さが漂いはじめたことに気がついたのだ。
すわ!火事か?! と飛び起きて部屋のなかを見渡しても、自分の部屋から発生している様子はない。何やら外から煙が入ってきているような気がして、すき間風の絶えないぼろアパートの窓を開けると、それはいきなり目に飛び込んできた。
隣の一戸建て住宅から煙が濛々と吹き出ている。炎は見えないが、煙の量から察すると、軽いボヤ等では無いと解る。すぐさま119番通報しようと携帯を探すが、いつも置くところにそれは無く、昨日着ていた服の中か?と、脱ぎ捨ててあったジャケットを手に取ったとき、火災の住宅側から「おーい」という声が聞こえた。
開けっ放しにしていた窓から見ると、まだ新築に近いようにも見えるその住宅の二階にある窓から男性が手を振っている。
「おーい、あんた!」俺に向かって言っているようだ。
「たのむ子供を...... 」2、3回咳込んだあと、
「たのむ、子供を受け止めてくれ」と言って窓の下を指差した。
二階にいた子供を、階段で避難させることができずに、窓から脱出させるしかないということのようだ。
直後、風向きがかわったのか勢いよく煙が吹き込んできて、俺は息ができず目も開けられなったため、堪らずにぎりしめたジャケットとともに部屋を飛び出した。
外に出ると、消防車のサイレンが聞こえてきた。俺が通報するまでも無かったようだ。火災宅の門扉を開けると、玄関の隙間から勢いよく煙が吹き出しているのが見えた。ドア内部の惨状が窺い知れる。
アパート側の庭に回り込んで上を見ると、窓から子供の足が出ているのが見えた。もう一刻の猶予も無いようだ。
男性が顔を出して
「いいですかー?」と言ってきたので、
「OKでーす!」と返答をして身構えた。
窓から出てきた足は素足で、ちらりと見えた服装から女の子だと分かった。トイレの窓らしく、小さな子でも出すのに手間取るほど窓枠が小さいようだ。
まだかとやきもきしながら、集まってきた野次馬にふと目を向けた、その時、子供が降ってきた。足を下にしていたはずなのだが、落ちる瞬間回転したのか頭が下になっている。
やばい!と思った時には俺の両腕の中に彼女は収まっていた。衝撃もあまりなく、どうやって受け止めたのかよくわからなかったのだが、とにかく無事のようだ。上を見上げると俺の様子を見ていたのか、親指を立てた父親の手だけが見えた。
good job! 彼の心の声が聞こえた。
ちょうどその時、家の前に救急車と消防車が到着したため、移動しようと向きを変えたとき左足に激痛が走った。ここに到着するまでに何処かでぶつけたらしい。足を引きづりながら門扉を出て、駆け付けた救急隊に彼女を引き渡した。
ほっと一息ついて、アパートに向かおうとしたら、腰が砕けてその場に座り込んでしまった。さすがにくたびれ果てたらしい。
ふと救急車の方を見ると、俺は目を見張って驚いた。すでにストレッチャーに横たわって治療を受けているはずの彼女が、ドアが開けっ放しの救急車の後部に座って、俺のことをじっと見ている。
道路に出るまで無我夢中で、彼女の容姿をよく見ていなかったのだが、細身で、肩下のロングヘア。エキゾチックな顔立ちで目が・・・。
目が異様に大きくて、そしてその瞳に・・・・
炎の、炎に似た赤い光が・・浮かんで・・・・・。
ここで俺は気を失ってしまった。
つづく(かも)
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