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Outer Wilds:DLC考察4

この記事はDLC考察の4回目です。前回はこちら

記事リスト:DLC考察1 / DLC考察2 / DLC考察3 / DLC考察4 / DLC考察5


注意:この記事には『Outer Wilds』本編およびDLC『Echoes of the Eye』の重大なネタバレがあります。未クリアの方の閲覧は推奨しません。


















信号と囚人の封印

DLC関連で筆者が衝撃を受けたことランキングの上位に「『眼』の信号が届かなくなった真相」があります(他の上位には「DLCが出たこと」などがある)。思わず「うわーーー」などと声が出たのを覚えている。本編クリア後に色々仮説を立ててみたのは何だったのか。予想できるかこんなもん。

一方で、住人が『眼』の信号を封印しようとした理由もまた物語上では説明がない。『眼』に宇宙を終わらせる能力があると知ってしまった以上はもう何者にも『眼』に接触して欲しくないと思うのは当然かもしれないが、だからといって彼らは別に宇宙の守護者とかになろうとしたわけではない。もしそうなら模擬現実に籠もってミイラになっている場合ではないだろう。死者には『眼』に近付く者を阻止することは出来ない。

どちらかといえば、もはや種族として先がないと諦めた彼らが自分たちの安寧のために他種族を遠ざけようとしたと考えるほうが個人的にはしっくり来る。そもそも宇宙のどこかに自分たち以外の知的生命体がいるという確証は無い。その生命が宇宙を航行する技術を持ち、『眼』の信号を発見し、実際にそこまでやって来る可能性はどれだけあるだろうか? 来るか来ないかも分からない存在を延々待つよりは、呼び込みをしている者を黙らせたほうが効率がいいと考えるのは理にかなっているのは確かだ。

理にかなっているのと実際にやるかやらないかはまた別だが、しかし当時の彼らには「そうする以外に仕方なかった」としか言いようのない事情があった。住人が『眼』のビジョンを見たスライドリールは『眼に到着→ビジョンを見る→大ショック→許さん→神殿を焼き討ち→信号を遮断する装置を作って設置→クローキングフィールドに身を隠す』という展開だった。強い怒りを表すシーンの後に神殿を焼き、その次に信号遮断装置の説明が来る構成だ。神殿に放火したのは明らかに感情的な行動と分かるが、装置のくだりは意外とあっさりしている。だが話の流れから考えると、信号遮断装置を作ったのもまた感情的な理由だったと想像するのが妥当ではないか。

つまり、彼らが信号を封印した理由には『眼』への報復目的も含まれている。もし『眼』が破壊できるものであったなら彼らもそうしようと思ったかもしれないが、相手は手出しどころか接触するだけでも取り返しのない事態を招く可能性を持つ存在だ。神殿を焼き討ちするのとは訳が違う。そこで、ある種の代償行動として選ばれたのが信号の封印だった。身も蓋もない言い方をすると八つ当たりである。

自分たちを裏切った『眼』を許すことはできない。『眼』そのものには手出しはできないが、かといって放置するのも不安。そういう感情の流れが信号遮断装置を設置しようという決定に至ったのではないか。そうすることで彼らは「自分たちに出来ることはやった」と自らを納得させ、安心しようとしたのだろう。この装置があれば、我々の一族と同じように『眼』におびき寄せられる犠牲者を出さずに済む。我々は選択を誤ったが、最後には正しいことをしたのだと。

だが、彼らが苦肉の策でどうにか作り上げた安心を破る者が現れた。囚人だ。元々は他の住人となんら変わらない立場の存在だったが、一族に無断で信号の封印を解いたことで、この人物は住人にとっての異物になった。囚人を罰するためだけにわざわざ特製の牢獄が作られ、模擬現実の中にも専用のエリアが用意された。遺物を持たされた囚人は保管庫の中に閉じ込められ、更に牢屋ごと水に沈められた。もちろん現実の保管庫の中には(通常の牢獄のような)生活スペースなどは存在しない。これは事実上の死刑である。

ちなみに囚人が入っていた保管庫(Vault)のゲームデータ上の名前は「sarcophagus」=石棺という。直球すぎる…

そして、ここにもまた別の疑問が浮かび上がってくる。囚人の罪はそこまでしなければならないほど重いものだっただろうか? 信号遮断装置の設置から囚人の「犯行」までどれくらいの期間があったのかは分からないが、信号が放たれていた期間よりは確実に短いだろう。装置が設置される前までの間はずっと『眼』の信号は宇宙全体に送信されていたのだ。それをほんの一瞬だけ開放したとして宇宙にどれだけの影響があるというのか。常識的に考えれば、たった一瞬の信号を捕捉して『眼』を目指してくる者がいるなんてまずありえないことだ。一族の決定に反する行動をしたのは事実だが、それが永遠の投獄に相当する罪だと断定するのは果たして公正な判断と言えるだろうか?

つまるところ、住人の囚人への仕打ちもまた八つ当たりのようなものだったのではないか。『眼』を罰したり、処刑することは出来ないが、ただの人である囚人にはそれが出来る。今まで抑えていた負の感情をぶつけても、それらは「一族の裏切り者」への正当な処罰ということになる。『眼』の邪悪さを考慮すれば、裏切り者である囚人への処罰はどれだけ重くても重すぎるということはない……といった理屈で囚人への仕打ちは正当化されたのではないか。当時の彼らの精神状態を思えば、囚人の行動が流れ者の社会に集団ヒステリーのような状況を引き起こしたのは想像に難くない。『眼』の信号を封印したのと、囚人を封印したのは実は全く同じ動機による行動だったのだ。

話は少し変わりますが、DLCの謎解きの不可解さは謎の合理性のなさが原因になっている場面が多い。終盤以降の謎解きは主に模擬現実をメインとして攻略を進めることになるが、模擬現実は自然豊かなイメージに反して実際は全てが人工物の世界である。そこに用意された謎もまた誰かが意図的に設置した物事によって生じた謎であるはずだが、にもかかわらず「次に進むヒントを探してようやく見つけた、と思ったらなかった」みたいな不可解な流れを何度もやらされることになる。まるでその謎を作り出した者の迷いが透けて見えるかのように。合理的な根拠があって計画的にそうしたのではなく、何か別の理由があって結果的にそうなったと言われるほうがまだ納得できる。

例えば、何か大切なもの…というより人に見られたくないものを隠すとして、どのような工夫をするのが良いだろう。まずは頑丈な箱に入れて鍵をかけるのは基本中の基本。その鍵も別の場所に隠して、鍵の隠し場所を書いたメモも別の場所に隠して……要するにDLCの終盤の謎解きはこうして作られていったのではないだろうか。見られたくないものに次々覆いをかけ、「これだけ苦労したのだから大丈夫のはず」と自分に言い聞かせる。最終的にはそれでも不安になり、鍵のメモをも処分したのだが。だが、そこまでして住人が隠したかったものとは何だろうか?

(そもそもの)スライドリールの謎

更に話は変わるが、実はDLCの物語で一番謎なのは流れ者住人に起きたことを説明するスライドリール(全4巻)の存在ではなかろうか(※正式名称が分からないので以下「物語のスライドリール」と呼びます)。あのスライドリールの内容は彼らにとって忘れたくても忘れられない出来事で、あえて物理的な記録として残す理由があるとは考えにくい。地球人類社会の歴史書のように、自分たちの過ちを記録して後世に伝えるといった意図もあるはずがない。

これはこの記事の中でも特に突飛な発想になるが、簡単に言うとあのスライドリールは囚人への償いのような目的で作られたのではないかと筆者は考えている。というのも、物語のスライドリールは住人たちの身に起きた出来後を記録しているようで、途中から囚人の境遇についての説明になっているとも言える内容だからだ。囚人に何があったかを直接説明しているのは最後の第4巻(※保管庫が表紙)だけだが、実はその前から囚人はこっそり登場しているのだ。

物語のスライドリール:第3巻より(表紙:遺物)

分かりやすいのは第3巻で(上画像参照)、冒頭の太陽系を眺めるシーンから故郷の映像を見て嘆くシーン、最後に遺物を持って眠るところまで、ほとんど全シーンに囚人が登場している。出てこないのは模擬現実を構築する場面だけだ。

物語のスライドリール:第1巻より(表紙:土星風惑星)

更にその前の第1巻にも囚人らしき人物が確認できる。画像の下側は囚人と他の住人の箇所をアップにして明るさを加工したものだが、丸で囲んだ人物には角が1本しかないことが分かる(※正確には右側=画面手前側の折れた角が奥側の角に重なって、見かけ上1本に見えている)。他の住人の角は奥側も手前側もしっかり描かれているので見比べてみて欲しい。ついでに言うとこの時の囚人は他の住人より身長が低く、おそらく住人の中でも年若い人物であったことが分かる(角もまだ短い)。第3巻の冒頭では他の住人と同じくらいに成長しているので、流れ者が太陽系に到達するまでの航行期間は流れ者種族の子供が青年~成人くらいまで育つ程度の期間だったことも分かる(流れ者種族の成長速度が不明なので細かい年月は不明なままだが)。

なお、残りの第2巻(表紙:宇宙の眼)には囚人と思われる住人は登場しない。第2巻の内容を考えれば当然か。

余談:本編では主人公が宇宙飛行士として独り立ちを認められる程度の年齢、Solanumが成年に達して量子の月の巡礼に出たところという設定なので、囚人も(流れ者住人の基準で)成人したくらいの年齢だとすると3人とも同世代という感じで面白いですね。これは妄想。もちろん実年齢は考慮しないものとする。

物語のスライドリールが囚人本人にも関わりのあるものだという根拠は他にもある。そもそもの経緯を考えると、スライドリールの第4巻には謎がありすぎる気がする。なぜ投獄された立場である囚人が、自分が投獄された後の出来事が描かれたスライドリールの内容を知っているのか。

理由はひとつしかない。囚人以外の何者かが、物語のスライドリールを作成し、その内容を囚人に見せたのだ。見せる手段はあるにはある。模擬現実の保管庫は完全に封じられているのではなく隙間を開けられるようになっている。保管庫の中の階段を登れば囚人もそこまでは来ることが出来るため、その隙間からビジョントーチの光を差し込めば囚人と連絡を取ることは可能だ。

よくよく考えると、物語のスライドリールの描写は囚人にとって同情的な演出になっている場面がいくつもある。例えば、囚人が信号を開放したシーンは住人の目線でいえば重罪人の犯行シーンであるはずだが、どちらかといえば住人たちのほうが恐ろしい存在であるかのような演出がなされている。保管庫に閉じ込められる囚人の無念そうな悲しげな表情も、とてもじゃないが「一族を裏切った極悪人」を表現しているとは思えない。

ところで、流れ者住人の表情やジェスチャーは地球人類のそれと似通った部分が多い。何か見て欲しいものがある時は指を1本立てて対象を指し示し、衝撃を受けた時は口を大きく開き、怒りに震える時は拳を握りしめ、遺物の実験がうまく行かなかった時は「ダメだこりゃ」と首を左右に振る。(アップデートで変更されたが)ちょっと待っていて欲しい時は手のひらを前に突き出して見せたりもする。それらの行動や表情の意味をあえて深読みする意味はあまり無いだろう。

擬音をつけるなら「ガーン」以外にない表情

それ以前の第3巻の内容も、囚人は他の住人と変わらない感性の持ち主であるという表現がなされている(太陽系に特別興味を示さない、故郷の映像を見て嘆く等)。囚人に対して強い悪意を持つ人物がこのスライドを作ったのなら「囚人は元々悪いヤツだった」というような表現になっていても不思議はないのに。

つまり物語のスライドリールは、流れ者種族だけでなく、囚人の運命をも悲劇として描いていると言える。もしこの一連の映像を作ったのが囚人自身だったとしても、その内容をスライドリールに出力して現実世界に配置することは囚人には不可能だ。

ここでまた別の疑問。囚人を処刑しようという当時の住人の決断は、果たして彼らの総意だったのだろうか?

前述の通り、囚人に下された処罰は行動の代償としてはあまりに重い。ついさっきまで仲間のひとりであった人物にそこまでの仕打ちをするのは酷だと思った人物がいても不思議ではない。囚人にだって家族や友人がいたはずだ。というより、流れ者種族の総人口はミイラの数でいえばたったの33人しかいない(※囚人含む)。ほぼ全員が家族か親戚のようなものと言っても過言ではない人数である。

その中に、たった数人でも囚人のために何かしようと思った人物がいたとしたら。そう考えると、現実側の物語のスライドリール第4巻があの有り様だった理由もなんとなく分かってくる。あのスライドリールで焼き潰されずに残っているのは囚人の牢獄となる巨大構造物の建造と、構造物を沈めたシーンだけだ。他の住人が万が一見てしまっても大丈夫なシーンはそれしかない。逆に言うと、そのシーンだけはどうしても残す必要があったのかもしれない。あの中に何があるのか、誰がいるのかを伝えるために。

囚人に同情的だった人物たちは、最終的には囚人を助けようと画策していた可能性が高い。現に模擬現実の保管庫=囚人の牢獄(の入り口)はどうにかすれば開く状態にしてあった。本気で囚人が永久に出られないようにするつもりなら入り口そのものを取っ払ってしまえば良かったのだ(模擬現実はデジタルの世界なのでそのあたりはどうにでも出来るはず)。入り口は封じつつも開ける手段は残しておいたのは、いつか住人たちが囚人を許す日が来たら、また元のように一緒に暮らせるようにという意図があったのではないか。

だが結局、その日は来なかった。何故なのかは分からない。月日が経っても住人たちは囚人を許さなかったのか、過剰な罰を与えたことが罪悪感に変わり、それと向き合いたくなかったのか。あるいは、少しでも囚人に同情していると思われたら自分も同じ仕打ちを受けるかもしれないという恐れのために、囚人と関わろうとすること自体を止めてしまったのかもしれない。彼らの居場所は文字通り閉鎖的で、仲間なしに孤立しながら生きる覚悟をするのは難しいだろう。仕方がないといえば仕方がない。

しかしそんな状況にあっても囚人を開放する道筋だけは辛うじて残されていた。あまりにもか細い糸のような道筋ではあるが、その意図をたどって囚人の元へたどり着く者があらわれるかもしれない可能性だけは確かに残っていた。保管庫をこじ開けた隙間からそのヒントとなるビジョンが見られるようになっていたのは誰かが意図的にそうしたから以外にありえない。その可能性だけでも残すことが、住人が囚人にできる最後の償いだったのかもしれない。

そもそもの話、住人たちがクローキングフィールドによって流れ者の存在を隠そうとした一方で流れ者の入り口は封鎖しなかったのもよくよく考えると不可解なのだが、これもいつか何者が入れるように住人の誰かが意図した結果だとするなら……と考えるのは妄想が過ぎるだろうか。

なお保管庫を解錠するパスコードについてだが、これは最悪ノーヒントでも総当たりによって開けることは可能である。残された行動時間がたった数十分とかでなかったら十分に常識的な解錠方法ではないか(特に3番目の鍵は)。まさか自分の命を犠牲にしてまで保管庫を開けようとする奇特な奴がいるとは住人の誰も予想していなかったに違いない。間違いなく。

まとめると、物語のスライドリールが作られた目的は主に2つあったものと想像する。ひとつは流れ者住人の身に起きた出来事を記録すること、もうひとつは囚人の名誉を守ることだ。それはほとんどの住人たちにとって忘れ去りたい過ちだったのだろうが、住人の意思が一枚岩でなかったとするなら「記録を残すべきだ」と考えた住人がいた可能性も十分ありうる。

物語のスライドリールの記録には、感情的な場面はあれど、出来る限り客観的な立場で物事をとらえようとする意図が見て取れる。「私たち」は『眼』を目指し、『眼』に裏切られた。私たちは『眼』を許せなかった。それでも、囚人がしたことは信号を一時的に開放しただけだ。人を殺したわけでも、宇宙を滅ぼしたわけでもない。そのことを「私」は知っている。覚えている。スライドの制作者はその証拠を残さなければならないと決意し、仲間たちに罰せられるリスクを背負ってでもスライドリールを現実世界に残したのではないか。全部想像。

囚人の(犯行)動機

住人たちの動機に関連して気になるのは、彼らもNomaiと同様に『宇宙の眼』を信仰していたことだ。ただしDLC考察2の記事でも書いたように、流れ者住人とNomaiとでは信仰のありかたというか、信仰の理由はやはり異なっていたと思われる。

Nomaiが『眼』の祭壇と呼んでいた施設にはNomaiたちの『眼』に対する考えが記されており、信仰の場というよりは研究対象について考察する探求の場に近い雰囲気があった。祈りを捧げるとか、念仏を唱えるとか、あるいは結婚式を挙げるとか、そういう類の施設ではなかったような気がする。どちらかといえば、信号を追ってきた結果起きた事故で一族が離れ離れになり、困難な時期を過ごすことになった彼らの心の拠り所として機能していたと想像する。それも宗教の立派な役割である。

脱線するが、Hearthian社会には(ゲン担ぎ的なレベルのもの以外には)宗教的な物事が存在しているように見えない。しかし主人公は航行記録において「祭壇(Shrine)」と「神殿(Temple)」を明確に使い分けている。それらの概念を理解しているだけでも凄いが、やはり宇宙飛行士だけあってインテリだからなのか何なのか。

対して流れ者ではどうだったのか。住人たちが『宇宙の眼』に何かしらの多大な期待をしていたことを思えば、その期待がやがて信仰に変わったと考えるのが最もスムーズだろう。DLC考察2の仮説が正しいなら、流れ者航行中の住人にとって『眼』は自分たちを破滅から救う救世主のような存在だったことになる。そうでなくても、Nomaiよりはもっとストレートに『宇宙の眼』を崇拝対象として扱っていたのは間違いない。

だが『眼』の正体は救世主どころか、それとは真逆の存在だった。もはや『眼』は崇拝の対象ではなくなり、住人たちは信仰を捨ててしまった。少なくともひとりを除いて

囚人だけは、あのビジョンを見ても『眼』への信仰を失わなかった。住人たちの反発を覚悟してでも『眼』の信号を開放したのはおそらくそれが理由だ。

DLCクリア後のエンディングで囚人はこう言った。「私は物事を正すためにできることはした。」(※英語原文:I did what I could to set things right,)DLCの初見プレイ当時、筆者はこの言葉が少し引っかかっていた。「物事を正す」とは具体的に何を指しているのか? しかし、後にゲームのアップデートで模擬現実の囚人の家とされる場所(※後述)に意味深な絵画が追加されたことで、やっとこの言葉の意味に確信が持てた。

囚人は、『眼』が宇宙を滅ぼすビジョンの最後のシーンで住人の頭蓋骨に草が生える描写に着目したのだ。『眼』は宇宙を滅ぼすが、それだけではなく、新しい何かを生み出す存在でもあると囚人は解釈したのだろう。このまま黙っていれば宇宙は滅びを迎えるが、『眼』には宇宙をまた新しく始める力がある。だとすると『眼』を否定し、信号を止めるのは、宇宙再生の可能性を捨てるのと同じことだ。囚人はそれを正しくないと判断し、行動に出た。それが囚人の犯行動機だ。

(※)『星明りの入り江』にある全焼した家のこと。元々金属製の『眼』のシンボルが落ちていたが、2022年9月16日のアップデート(v1.1.13)で絵画が入った容器が追加された。ゲームデータ上では家の名前は「BurnedPrisonerHouse」、絵の名前は「PrisonerProphecy」となっている。prophecyは「予言」「預言」の意味。
(実際のスクリーンショットは眼の考察記事を参照)

古い宇宙を終わらせまた新しく作り出す、宇宙の生死を司る存在。こう表現すると『宇宙の眼』はまるでそのものだ。『眼』とはオメガであり、アルファでもある。大多数の住人が『眼』を恐れ信仰を捨てる一方、逆に囚人は『眼』への信仰を深めた。囚人の行動は辞書的な語義で正しい意味とされる方の「確信犯」に近いものがある。流れ者の社会通念上では悪と見なされる行いだが、宇宙にとっては正しい。そう信じて囚人は『眼』の信号を開放したのだろう。

もしかしたら、前述の「囚人を助けようと思った者たち」の中にも囚人の解釈を信じた人物がいたのではないか。模擬現実の家が焼き払われた一方で絵だけは不自然に無事だったのがその根拠だ。模擬現実は人為的に作られた世界であり、あらゆるものは何者かの意図によって用意されたものである。不自然なものであるほどより強い意図をもって設置されている可能性が高い。あの絵は『眼』を信仰し続ける者にとっては宗教画に等しい大切なものなので、特別に守る価値は確実にある。黒焦げになった囚人の家は皮肉にも新しい『眼』の神殿として機能するようになり、隠れて『眼』を信仰し続ける者たちの心の拠り所になっていたのかもしれない。

しかし囚人にいくらかの仲間が存在したのだとしても、ほとんどの住人は囚人の行動や『眼』の解釈を受け入れることは無かった。いかに神の御業といえど、自分たちが滅びると分かってその運命を受け入れるのは並大抵のことではない。住人たちの『眼』の信仰は現世利益を求めるのに近いものだったと思われるので尚更だ。死ぬのが怖いと本気で怯えている人に「この宇宙は終わってみんな死んじゃうけど、また新しく始まるから大丈夫!」などと言ったら最悪殴られる。

でも『Outer Wilds』のエンディングは身も蓋もない言い方をすればそれと近い内容なんですよね。本編の結末とはあえて逆の考え方を取り入れているのもこのゲームの凄いところというか、だからこそDLCについて延々考えてしまうところがあります。

なお囚人が最後に主人公の前から姿を消した理由ですが、こればかりは考えても考えても分からない(でも考えてしまう)。しかし囚人が水の中に去ったことと、本編で『眼』の座標が巨人の大海の水の底で発見されることはどこか意味ありげで、気付いた時はエモーショナルさに打ち震えた思い出があります。多分これからも折に触れて考えてしまうのでしょう。

文字数のペース配分を完全に間違えてやたら長くなりましたがDLC考察はまだ続きます。次の記事で終わりです


おまけの小ネタ・意味深な絵画

住人の囚人に対する感情の話で興味深い要素があります。『果てなき峡谷』の建物の中には絵画が展示されている隠しエリアがありますが、その中にこんな意味深な絵があるのだった。

流れ者の各地で見られるボードゲームを描いた絵ですが、住人を模して作られている駒のひとつが片方の角が折れた状態で倒れている。このゲームは「Antler(住人)」「Blocker(※三角の枠)」「Eye」の3種類の駒を動かして住人 VS 『眼』的な対戦をするルールになっているそうですが(Mobius Digitalの3Dアーティスト・Jon Oppenheimer氏による情報)、そのルールを踏まえて考えてもあまりにも意味深である。明らかに何かの暗喩であるが、これがある種の風刺画のようなものだとしてもその批判が誰に(何に)向いているのかまでは分からない。

あるいは風刺などは特に関係なく、ただ囚人を悼んで描かれた絵かもしれない。囚人の話はおそらく住人の間でもデリケートな話題だったと思われるので、直接的に何かを表現できる状況ではなかったことくらいしか分からない。どちらにしても筆者にとってはどこか物悲しさを感じてしまう絵である。

次の記事を読む(DLC考察5)


スクリーンショット引用: Mobius Digital 『Outer Wilds』(2019)
DLC『Echoes of the Eye』(2021)

メモ:ファンサイトでの初出一覧(一部):

  • 囚人が処刑された理由・囚人を救おうとした者がいた可能性:DLCプレイ日記(2021年12月2日公開)

  • 保管庫のデータ名:雑談考察(2021年12月17日更新分)

  • 消失した建物と絵のデータ名:雑談考察(2022年9月16日更新分)

  • 絵の解釈:雑談考察(2022年9月18日9月29日更新分)

  • 意味深な絵画:小ネタ(2023年12月8日公開)/ OWコミュニティ(2022年6月4日投稿)

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