Outer Wilds:DLC考察1:言葉では語られない物語
2021年4月29日、Outer Wildsの最初で最後のDLC『Echoes of the Eye』がSteamに突然登録されました。この頃、私は本編をクリアして感動のあまり勢い余ってファンサイトを運営するほどOuter Wildsにハマりきっていたので、このニュースには大変驚いた。「あの完璧に終わったゲームにDLCが!?」「しかもホラー要素があるの!??なんで!?」
当時、私と同じように思ったOWファンは世界中にいたに違いない。だが同年9月29日、リリースされたばかりのDLCをプレイして数日かけてクリアした感想はこうだった。「DLCがないOuter Wildsなんて考えられない」
この記事では、そんなとんでもないDLC『Echoes of the Eye』プレイ当時やクリア直後の衝撃やその後を思い起こしつつ、これまでDLCについて考えてきたことの総括的なことを書いていきます。「この記事は」と書いたが長いので複数回に分けます。時間がある時にでもお読みください。
※個人的な考察であり正確性は全くありません。また、内容は私が運営していたOuter Wilds非公式ファンサイト(現在は閉鎖)で公開していた考察等と重複する部分があります。あらかじめ御了承ください。
記事リスト:DLC考察1 / DLC考察2 / DLC考察3 / DLC考察4 / DLC考察5
注意:この記事には『Outer Wilds』本編およびDLC『Echoes of the Eye』の重大なネタバレがあります。未クリアの方の閲覧は推奨しません。
最初に小ネタ:DLCが誕生したのはハロウィンのおかげ?
~ 本格的ネタバレ警告エリアまでの間埋めの小ネタコーナー ~
元々『Echoes of the Eye』はハロウィン向けの小規模なDLCとして開発されていたそうです。Outer Wildsが発売したのは2019年ですが、本編リリース前には早くもDLCの開発が始まっており、同年には既に何人かのゲーム解析勢によってその証拠が発見されていました。DLCにホラー的な要素があるのはハロウィン的な不気味さを取り入れようとしたのが理由だったんですね。
そもそもOWの開発資金提供受付中だった2015年9月頃には「Mystery Planet」の追加を発表していたとか、ディレクターのAlex Beachum氏が開発中の講演で発表したアルファ版のスクリーンショットにも土星風の輪を持つ青い天体が写っていたということなので、かなり前から構想と仕込みがあったことになります。ビックリしますよ。
ちなみに本作のシナリオを担当するKelsey Beachum氏は(名前が紛らわしいことで知られる)『The Outer Worlds』のDLCシナリオも担当されている方ですが、当時はOWのDLCとOWのDLCのシナリオに同時に取り組んでいたそうです。そんなことある?
↓ ここから本格的にネタバレエリア ↓
言葉では語られない物語
個人的にDLCについて思う本編との最大の違いは言葉の有無です。本編はゲーム世界の謎についてほとんどの部分をNomai達が言葉で説明してくれていたが、DLCは違う。エンディングを除き、全ての謎解きやストーリーの読み解きは絵や映像や視覚的なイベントから憶測する必要があります。もちろん本編でも「憶測」の時間は多々あるが、それに加えてDLCでは発見した情報そのものの解釈がプレイヤーに委ねられている面がある。
それは言い換えると「言葉によって情報が確定するターンがない」ということでもある。攻略的に言えば航行記録における主人公の情報まとめは文字情報だが、メタ的に言うとその文章も主人公の解釈によるものでもあるわけで。
この「確定しない」ところがDLCの読み解きにおいて非常に曲者で、だからこそクリアから数年経つ今でも「あれはああだったのではないか」と考えて唸ってしまう原因になっています(個人の感想です)。言葉がないからこそ言葉を尽くして語りたくなるのが『Echoes of the Eye』の魅力だと思っています。
しかも、恐ろしいことにこの「解釈」は攻略だけでなくDLCのストーリーにも関わってくる概念でもある。物語と攻略が一体化している構造はOW本編でもおなじみですが、DLCもそこは変わらないのだった。このあたりは後述。
言葉によって確定しない情報の中でも特に気になる要素は、DLCに登場した彼らの動機や理由である。というのも、DLCでは「何が起きたか」「その結果どうなったか」といった説明は出てくるのだが、そもそも何故そんなことを仕出かす羽目になったのかについては意外と語られる場面が少ない。「いや、それは重要だろ!?」と思わず言いたくなる大事なことでも「まあ、ここまでは前提としてですね」と流されてしまっている(流れ者だけに)。
例えば、ざっと思いつくだけでもこれだけの謎がある。
なぜ流れ者は『宇宙の眼』を目指したのか?
なぜ彼らは別の惑星に移住したりすることなく模擬現実を「移住先」に選んだのか?
なぜあの人物は『眼』の信号を開放したのか?
なぜあの人物はあれほどの仕打ちを受けることになったのか?
いずれもかなり物語の根幹に関わる疑問であるはずだが、実際はどれも直接的には語られていない。そんなことがあっていいのか。というわけで、この記事ではこれらの疑問について自分なりに考えたことを書いていきます。
好奇心と恐怖
話を始める前にもうちょっと前置きの話。
DLCのテーマ、というと大袈裟かもしれないが、DLCを構成する要素の中でも特に重要なのは「恐怖」だろう。本編はストーリーもゲームそのものも好奇心を主軸に据えた構造をしていたが、Outer Wildsの物語でそれに対応する概念を持ってくるとすれば恐怖が最も妥当なのではないか。「知りたい」と興味を持つ心と、「知らない」ことに恐ろしさを感じる心はほとんど表裏一体だからだ。例えば「言葉が分からない」といったことも状況次第ではかなりの恐怖に直結する事態である。
本編が好奇心を尊ぶ価値観に基づくゲームとするなら、DLCはその好奇心に疑問を投げかけるような内容だったとも言える。そもそもDLCは報われなかった者たちの物語である。「報われない」のはある意味プレイヤーも同じで、謎解きに苦労しながら怖い思いをしてDLCをクリアしたとしてもエンディングの大筋は変わらない。太陽の死は避けられず、宇宙もHearthian達も救われない。本編の運命を変えたいと思っていて、DLCにそれを期待していたプレイヤーにとっては不本意な結末だったかもしれない。
しかし、報われなかった行動はその全てが無意味なのだろうか。成果が得られなかった冒険には何の価値もないのだろうか?
DLCの物語は本編や好奇心そのものを否定するものではなく、描いているのはあくまで好奇心の別側面である。次回からは、言葉では語られなかったDLCの謎について考えていきましょう。次の記事に続く。
スクリーンショット引用:
Mobius Digital 『Outer Wilds』(2019)
DLC『Echoes of the Eye』(2021)
メモ:ファンサイトでの初出一覧(一部):
DLC開発の経緯:雑談考察(2021年12月9日更新分)
ハロウィンの件:雑談考察(2021年11月19日更新分)
DLCのテーマ:DLCプレイ日記(2021年12月2日公開)