数時間前まで高級食品だったゴミを朝まで警備していた話
この話において先に述べておく。
警備員には守秘義務があるのでフェイクを混ぜるが概ね同じ話だ。
寒い日でも暑い日でも深夜でも、人間は働きその日を繋いでいく。
そんな生活の一部を話したい
美味しそうな高級食品が並ぶデパ地下やセレクトショップ。閉店すると同時に店舗そのものの入れ替えや廃棄が行われ、必要な資材は荷物に乗って、先程まで高額な値札がついていた食べ物はゴミ箱に。
ゴミとはいえ処分されるまでは店のものだ
猫が食い破るかもしれない。早くも匂いを嗅ぎ取りゴキブリが這い寄る。これらを狙い浮浪者が建物に侵入するかもしれないし、そうでなくとも入れ替え作業中は皆忙しく働き接触事故が起きるかもしれない。それが終わってもサインをもらうまでは帰れない。サインを貰えても始発列車が動いていないこともある。
寒さに手を擦り合わせ、空腹に耐えつつ、美味しそうな『ゴミ』をビニール袋越しに見る。
もちろんこの袋を開けて中身を食べるなど警備するものとして論外なのだが、先程まで高級食品だったこれらと、まだ食べられるだろうに廃棄され、油虫の褥となっている現在との境目はなにかという意味のない思索を自制するには朝までの膨大な暇(いとま)のせいもあり少々私の貧弱な精神には難しいようだ。
食べられない、ブランド価値があるからこれらは高い。だから選ばれなかった、『食べられない』彼らはゴミとなる。ブランド価値を守るために。
『子供食堂にでも寄付すればいいのに』
輸送費もかかるし、調整も必要だし、ゴミとして出した方が予算も手間もかからない。それは私にもわかる。
空腹と日付変更。私の記念日は警備後に始まる。
クリスマスも正月も関係者にとっては警備が無事終わって日付が変わってから行われる。
知人がニューイヤーを喜ぶメッセージを送ってきた
かの国では今がニューイヤーなのだなと当たり前のことに苦笑い。まだ仕事だよと彼女をなだめ、私は自販機でホットコーヒーを購入し、掌を温める。
皆様楽しく過ごせましたか。私たちは皆様が楽しまれたのを確認し後ほど参加します。彼女の時間より少し遅れてからわたくしもhappy now years!としましょうか。
そして私は一人イベントを祝う
皆様楽しい一日を過ごせましたか。それが我々の最大の喜びです。
もし一日遅れのイベントがあれば
このようにイベントのために集められ廃棄される食品を使った子供食堂イベントが有れば、子供たちの食事代を払ってもいいかもしれない。
芸能人格付け番組では
五千円だけど高級ワインより美味しいもの、冷凍だけど高級タラバガニより美味しいとか紹介されてもその安い商品名やお店は紹介されない。ブランドの実態は同じメーカーだったりする。我々は情報や物語を買っているのだろう。
子供食堂で一日遅れて無事皆を幸せにした情報なら、私は買いたい。
そう思いつつ、私はスーパーで買った方が明らかに安く量が多く美味しいはずのチキンをコンビニで買い、ストロング系プライベートブランドの酒を買い、星空に乾杯と気取ってみたくてもはや明けつつある夜空に苦笑して帰路につくのだ。