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短歌50首「新銀河より」


新銀河より  からすまぁ



一万年が経った。
人類は超進化を遂げた。不老長寿、超科学的能力の獲得。太陽系すべての惑星に居住可能となった。
第四次太陽系大戦をもって人類は一つの連邦となり、以降の数千年は平和であった。戦争を終わらせるためには、〈戦争 を終わらせるための戦争〉が必要なのかもしれない。
ところが数百年前に太陽系の近くに他の生命体が居住域を広げてきたことにより状況は一変した。彼ら—— 来訪者は人 間と同程度の知性を持ち、交流により友好的であることが分かっている。
しかしながら政府は数百年に渡って安全保障が侵されていると訴え続けた。彼らの見た目は異形そのもの、怪獣のよう。 人を簡単に殺せてしまう彼らの隣で暮らすことは危険だ、という。
そして遂に、人類連邦は彼らに対し宣戦布告した。銀河戦争の始まりだった。

—— さて、それは歴史の話。
開戦から少し、つまり数百年経って、終戦の気配は全くない、そんな地球にはとある腐れ縁の二人がいた。
一人は陽の光のようで、一人は深海のようだった。


蹂躙は月の遠くに見えぬもの陽にわらわれておれもわらった

雲梯のような明るさ持つきみと言われてかすか絡まるまつ毛

深海の憂うばかりの深海のけむりを指に沿わすばかりの

噓つきの胸骨の白 もしあれば秘密はあなただけに話した

億光年先へ宣戦することを賛成だとは、言、わ、な、い、け、ど 塵

星間距離がたわむ明日に雨が降りおれたちの腐れ縁の一〇〇年

人類はもう中性で誰とでも祈れるいびつなそとがわを持つ

どう進化してもうつろは 性のため藍のあなたは月に通って

親友と呼べばいいはず 衛星にまっすぐ吸われてゆくエレベーター

願ったら兵士になれる すこやかな双葉のようにあなたを離れる

水滴のひらめくような前日に寡黙なまぶたばかりの記憶

戦場へ 天王星へ 音の無い攻戦だけがすべてだったと

光線の往路でさえも見えなくてどこにいたって実感がない

かがやきの粉そのままで宙に浮く文字が届いてあなたが濃くて

うつろに訳があるのだとして 蒼穹を貫くような幼馴染みが

相棒と呼ばれていたと露を受く紫陽花の葉のごと聞いており

快晴の多弁 開戦直後冥王星出兵 寡黙の深海

連絡を文字を美空に放つこと見たことなくてどうして おれには

撃つたびに大切なひとを思うよと剣のようなる瞳の彼も

夕焼けに横顔が浮き叫声、惑星、コアが霞んで、暗転 ああ

「こちら地球。ぼくのしんゆうたちは皆シャボンみたいに上がって閉じる」

海溝の底に誰にも触れられぬように煙草にひかりが欲しい

冬を好く春に生まれた司書官のかたわらにゆき目は合わせない

淡すぎる哀を抱えるやつだから恋しいなんて容易くゆれる

重力を感じてやまぬ体躯へと変わって月にはもう行けないね

さみどりの約束を胸の前に持つ司書がはらただしくて上々

冥王はもう落ちていて降りそそぐものが現(うつつ)を教えてくれた

明転 敵と呼ぶには静寂を湛えてやまぬ瞳たちのなか

傷つけぬためにふるふる触れてくる鉤爪だった 隣人だった

息になるほどに正しく脈を持つコアで大きな瞳が凪いだ

冥王星(サターン)に囚われている蝶々を留めるアブラナほどのちからで

ひょっとしてと思ってしまってひょっとしてと尋ねればそこにいる五月晴れ

ここにいることで抗う 水平線 だから相棒だったのだろう

晴れには晴れの理(ことわり)がありゆっくりと月暈が目を開くかのよう

侵略者だったと気づく 仄暗い火を受けやわらかく伸びる影

戦争は一つになるまで止まないのかな ねぇ、眠ったら広がる銀河

降りそそぐ白は威嚇のためなのに振り向くと結果が伏している

過去のもろさを引き摺るヒトもいるのだと司書を背負って走りつつ飛ぶ

眠りいる春を見るため帰還した鋭い萌黄色のまなざし

守るためには近くにいなきゃならないと言われて深海に雪が降る

終戦をなんどもなんども阻むのは人類政府と知って立花

自らの手で閉じられた耳朶に咲く情報が果ての星に行けよと

戦況は彼らにあるが要求はないと言われているのにるのに

ひぐらしが背景となるようにして声を上げても上げても 変わらぬ

いっせいに気泡が押し寄せやまなくて ぼくも発つのだ二人の場所へ

人類軍に追われてあなたがやってくる ひどく葉を震わせて去る鳥

爆撃に次ぐ爆撃の 裏切りと叫ばれていて隣人に笑む

包まれて。危機とはうつくしいものと分かってはいた 空の匂いの

腕ふたつ広げて前に躍り出た快晴のコア割れて散る雪

空が海に触れても波紋は生まれない だから冷たい相棒を抱く

続く


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