『黒猫王子の喫茶店 お客様は猫様です』高橋由太著 角川文庫
今月のテーマは、読み解き方と書き方。
今日は、キーワードの反復と説得力を中心にお話ししようかと思います。
1お金と主人公
この本では、繰り返し「主人公にお金がないこと」が記されています。
その理由として、
話の展開への説得力を持たせるためだと考えます。
主人公は勤めていた会社をクビになり、
家賃の支払いすらままならない状況に置かれているところから話が始まります。
先週分析したものと違うのは、物語の世界観の設定を羅列するのではなく、
主人公の人生がある程度進み、その上でお話の本筋に巻き込まれていく描き方がなされている点です。
主人公の生い立ちからの出発点ではないにしろ、この本の中での中心となる物語は、その始まりから描かれていきます。
その上で重要になるのが、主人公が今現在どういう状況で、どういった自己認識で、どういう人物なのか。
という3点。
これを、「お金」と「仕事」というわかりやすい、ナマモノから表現していきます。
そのために、彼女のお金に対する考え方、態度が数ページに数行単位で繰り返し描かれます。
その時にポイントになるのは、具体的な数字ではなくお金に関するキーワードを並べていることではないかと考えています。
仕事に関しては、数回触れる程度であまり突っ込まないのですが、おそらく、彼女の経験から自己評価を提示するためのアイコンとしているのではないでしょうか。
2やりとりの反復
今回中心となる登場人物は主人公を含め二人。
この二人が、初めから終わりまで同じ調子のやりとりを続けます。
これにより、お話そのものへのリズムを生み出しています。
わかりやすく例えるなら、漫才のような感じでしょうか。
決して、ツッコミとボケが決まっているわけではないのですが、どことなく漫才のそれを想起させるやりとりを繰り返すことで、飽きさせず読み進められるようになっています。
このリズムが、物語を支える上で、読みやすさへとリンクしていくのだと考えます。
そして、このテンポの良さがキャラクター小説においては重要となって来ます。
ここでいかにそのキャラのセリフに説得力を持たせ、
テンポを生み出せるのかによって物語そのものの面白さが変わってくるのではないでしょうか。