電撃文庫 甲田学人『断章のグリム Ⅰ 灰かぶり』 より序章
1 構成
今回分析していく、序章は
物語の前提の設定→登場人物の二人の話→二人の関係を踏まえての設定
という流れになっています。
主人公二人が物語の設定の間に挟み込まれているのですが、ここがこの序章でにポイントです。
物語の設定に挟まれているやりとりになるのですが、二人が出会うところや物語の始まりを描いているのではなく、始まりからは数日経っているという前提のもと話が進んでいます。
これが、二人のやりとりを挟む形で書かれている設定を、設定ではなく世界観の前提として、提示しています。
2 感情の表現方法
今回も三点リーダが大活躍です。使い所に作者の癖が顕著に出るのでは。と思い始めました。
今回の作品では、何かしらの感情に起因する動作、表現の直前のセリフで三点リーダが多用されています。
その意味合いは、話者の心理的な間。
この間によって、直前の状態から幾分か感情が揺れ動いていることを示しています。
一番わかりやすいのは22ページ7行目から12行目にかけてのやりとりです。
「だって、雪乃さんも面倒だろ」
「……うるさいわね」
一応は図星なのだろう、一瞬の沈黙の後、雪乃は言う。
「それに、雪乃さんが幸せな方が僕も嬉しいし」
「…………うるさい、殺すわよ」
雪乃の声が底冷えした。
(断章のグリムⅠ 灰かぶり 22ページより引用)
一度目のやりとりでは、雪乃のわずかな感情の動きを。
二度目のやりとりでは、それよりも大きな振れ幅を、三点リーダの数とそのあとに続く描写によって導き出している。
言葉数は少ないが、声色の描写や間の描写をうまく用いることで、決して無感情な人間ではないことを表現しているのではないだろうか。