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【考察】「5TH DIMENSION」と「GOUNN」から見る「ももクロの世界観」
ももいろクローバーZが2013年に発売したアルバム・『5TH DIMENSION』およびシングル・『GOUNN』。この2つの作品は旧来のライブアイドルとしてのももクロのイメージを大きく打破し、新しいももクロ像を打ち出した。そのイメージは『祝典』『イドラ』など後続の作品にも引き継がれており、ももクロの世界観の核を構成している。
では、これらの本質は何なのであろうか?ももクロの作品の中核を構成する因子は何であり、どのような心象世界を我々に提供してくれるのか。
本稿では前述の2作品を貫く思考を考察し、それを明らかにしていく。
2つの作品のテーマ
これら2作品には明確なテーマが設けられている。『5TH DIMENSION』は宇宙、『GOUNN』は自己の探求である。
キングレコードの宮本純之助氏は、5TH DIMENSIONの制作にあたって収録曲「猛烈宇宙交響曲・第七楽章『無限の愛』」から着想を得て「宇宙的イメージ」をテーマにしたと語っている。(2013年・銀座 BODYSLAM BOYSより)
そして、GOUNNには「理想の自分に会いにいく」という大きな主題が設定されていることが明らかにされている。またメンバーの玉井詩織さんは「よく聴くと歌詞に深い意味が隠されてるんですよ。「あなたに逢いたいよ」の「あなた」というのが理想の自分のことで。理想の自分に会いたいって。」と語っており、自己の探求を主題としていることが見て取れる。(2013年・音楽ナタリーより)
「輪廻転生」というテーマ
2作品にはそれぞれのテーマがあるが、筆者および多くのモノノフはこれら2つには共通項があると感じているはずである。
『5TH DIMENSION』および『GOUNN』を貫く大きなキーワードは、「輪廻転生」である。
以下は『5TH DIMENSION』の収録曲「灰とダイヤモンド」の歌詞の一節である。
過去よりも高く翔ぶために 助走つけるために
何度も 生まれ変わってる
ヒカリ 夜明け 輪廻
そして、『GOUNN』を表題としたライブツアー「ももいろクローバーZ JAPAN TOUR 2013『GOUNN』」では、「輪」「廻」「転」「生」4つの章から構成されるセットリストを披露した。
これら2つの作品はこの共通の言葉で繋げられており、メンバーの玉井詩織さんは「前回のアルバムの最後の曲(灰とダイヤモンド)に、輪廻って言葉が入っていて、そこから新曲(GOUNN)に繋がっている」「輪廻転生で、ももクロがまったく新しい旅をスタートする」という見解を示している(音楽と人、2013年)。
「輪廻転生」はインド哲学で受け入れられていた「生まれ変わりのサイクル」を指す。2作品は、それぞれ「宇宙」「自己」の観点を用いて東洋的な価値観から世界を再構築して表現していると受け止めることができる。
筆者は、2作品が「宇宙」「自己」の観点から世界を表現したことをインド哲学の概念・ 「ブラフマン(梵)」「アートマン(我)」で解釈できると考える。これらは前者が宇宙、後者が自己を指す。古代インドではこの二者を同一のものとみなす(梵我一如)考えがあり、これを輪廻転生の根拠としている。
GOUNNツアーが表現に取り入れた仏教も、この概念をベースにして成り立った宗教である。仏教は後者「アートマン」(自我)の存在を否定することを示唆しており、これが特色となっている。
GOUNNツアーの構成に見る世界観の到達点
筆者は、先述した仏教の定義する世界観こそが2作品でももクロの提示した世界観の到達点と合致していると考える。
ここで、GOUNNツアーの構成と最後の演出を紐解いていく。
「輪」「廻」「転」「生」4つのブロックから構成される本ライブは、それぞれのブロックでそれぞれの単語を表現したとされるセットリストが組み込まれている。特に「廻」で披露された曲は「DNA狂詩曲」や「キミとセカイ」など自身の内に分け入る歌詞のものが多い。すなわち、これらのブロックでは文字通り「輪廻転生」の世界観を自我の観点から表現したものと考えられる。
そして筆者は、GOUNNツアーの核はこの後の構成にあると考える。
4つのブロックののち、構成は「五蘊」に移る。このブロックではそのタイトル通り発表曲「GOUNN」が披露された(パフォーマンスはリンクを参照)。
その後、ももクロのメンバーは火の玉となって、後ろのスクリーンに映された光の元へ退場していく。これで本編終了である。
『GOUNN』は、構成要素が消えていくことを到達点として世界観を完成させるのである。では、この作品におけるももクロメンバーの存在は何を表しているのか。それが「五蘊」である。
五蘊は色蘊・受蘊・想蘊・行蘊・識蘊の5つからなり、仏教用語での人間の認識作用を表す。コンサートの演出でも示されたように、ももクロメンバー5人はそれぞれの認識作用の存在を象徴して表現されている。
そして、驚くべきことに、仏教では「五蘊」の存在を否定することが悟りに必要とされているのである。般若心経に「五蘊皆空」という言葉があるように、五蘊は「空」であるという考えが仏教の根幹なのである。
これを達成して「輪廻転生から抜け出す」ことが、仏教における「悟り」とされている。
これを元に演出を見ると、GOUNNツアーの最後は「五蘊」が消えていくように捉えることもできる。すなわち、『5TH DIMENSION』『GOUNN』でテーマとされていた輪廻転生から抜け出したことがこの2作品のゴールであると考えられる。輪廻転生する世界を丁寧に描き、最後に「悟り」としてこれらを否定する。
「ももクロは悟りを開いた」表現が、ライブの作り出すももクロ像の2013年における到達点と捉えることができるのである。
『イドラ』を見る
「GOUNN」の歌詞に、以下のフレーズがある。
盛者必衰 でもお断り
私は私の化身になりたい
「化身」もまた仏教用語であり、「仏がさまざまな形となって現れた姿」を意味する。2024年5月に発表されたアルバム『イドラ』では、ももクロはさまざまな伝説上の存在として演出されている。
ももクロが作り上げた「ももクロ時空」の中では、『イドラ』は『GOUNN』で悟りを開いたももクロが化身として現れた世界を表している…と捉えることもできるのかもしれない。
おわりに
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もしかするととても怪しい文章になっているように見えるかもしれません(笑)
しかしももクロちゃんの表現する世界はとてもディープで、かつとても哲学的である!という側面を伝えたい思いもあり、本稿を書いてみた次第です。
新しい演出となるももクリを控え、かつ「イドラ」が発表された2024年も佳境となる中、少しでもももクロちゃんの世界観の魅力を伝えられればと思い書いております。これからもアルバムを軸に、微力ながらももクロちゃんの世界観の魅力を発信できればと思っております。よろしくお願い申し上げます!