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三度のまばたき

20201226

朝、保育園に送る前に、皿洗いをしていた。

「ひゃっ!」とすこし甲高くて、大きめの声が背中で、した。妻の声だった。

めずらしい声質だったから、こちらもビックリする。

「どしたの?」「◯◯ちゃん、引っ越すんだって。」

保育園からの手紙に、◯◯ちゃん12月いっぱいで退園です、と書いてあった。

◯◯ちゃんは、娘のういが仲良くなった女の子で、一学年上のお姉ちゃんだった。

◯◯ちゃんと仲良くなって、娘は保育園に行くのが随分と楽しくなったようだった。

つい数日前、
「このところ娘は楽しげに保育園にいくようになったようにみえる。保育園に送りに行った際の別れ際のキレがちがう。2年と半年通って、見違えるように楽しんでる感じがある。一つ上の学年のお姉ちゃんと仲良くなって、一緒に遊べるのがすごく楽しいみたい。」

と、僕のメモにも書いたばかりだった。

そばで話を聴いていた娘も、事情を察する。

一気に顔が強張る。
まばたきを一度するごとに、閉じた口が横に伸びて、目も細まる。
泣きそう、と思って隣にいくと、案外泣かない。
泣きそうな顔や背中をしてるけど、泣かない。
なぜだかわからないけど、泣くことを堪えてる。

「◯◯ちゃん引っ越すのかなしい?」とたずねると、「ううん。」と泣くのを耐えた顔で返事をする。

◯◯ちゃんの引越し話の直前まで、焼芋を食べようとしていたのだけど、それも「いらない。」

「保育園行かない。」とうつむいて言うのだけど、今日お仕事だからと、行ってもらう。

保育園までの車中5分ほどで、ケロッと元気になって、先生に会った時に楽しそうに笑っていた。

今日も保育園楽しくやれそうかなと安堵しつつ、さっきの、泣くのを堪えた様子の、3度ほどのまばたきが忘れられない。

先生に、◯◯ちゃんはまだ保育園に来ることを教えてもらう。

「◯◯ちゃんに手紙かく?」とたずねると、笑顔で首を横に振る。

「じゃあ、僕とカカ(妻)で、ありがとうって書くね。」と伝えた。

会えなくなるとわかって、泣きたくなるような間柄をつくりあえた◯◯ちゃんと娘はすごいなあと、ただただ思う。

そして、そんな関係をつくってくれた◯◯ちゃん、ありがとう、とも。

この年になると、か、僕の人間関係のあり方だから、か、はわからないけど、会えなくなるとなって泣くってのが中々想像できない。

亡くなったってことであれば泣くけど、生きてればまた会えるでしょと、当然のように思ってしまう。

まあさすがに毎日一緒にいる、妻と娘と愛犬に会えなくなったらって思うと泣くか、とも思うけど、それ以外となると中々わかんないなあと思う自分がいる。

でもそんな当たり前は、ひょんなことでなくなるってこと。そして、その衝撃にむきあう姿を朝の娘に教えてもらう。

明日にでも、妻と僕とで、ありがとうと手紙を書くつもり。

◯◯ちゃんの名前には、娘がかけるようになったひらがながいくつかあるから、妻と僕がお手紙書いてる間に、すこしでもかきたくなったらうれしい。

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