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嫌い

20220516

「ういって嫌いって言わないよね」と、娘について妻が言う。

確かにと思う。ういさんの口から何かを嫌いって言葉を聴いた覚えがない。

「大好き」はよく言う。
好きであることに真摯なんだと思っている。「大好き」って言い続けていてれば自分のモノになると思っているだろう節もある。

幸運なことに、僕たち親なり、どこか他の場所から、ういさんが欲しいと思っているモノはうまいこと集まってくる。

食べ物の好き嫌いはある。
そういったモノを食べた時には「べーっ」と舌をつきだす。ただそれは嫌いうんぬんより、身体に合わないってことを全身で表現しているように映る。

嫌いって言葉に限らず、ういさんの口から罵詈雑言の類いを聴いたことがない。

基本的には何かへの賞賛と、欲望の主張とを発しつづけている。

強い言葉を発するのは、愛犬ナンちゃんに何かを注意するときくらい。「ナン!ダメでしょ!」と妻と僕の真似をする。

テレビがないからなのか、戦う相手としての兄弟がいないからなのか、お友だちや先生が素晴らしいのか、はたまた妻と僕が素晴らしいのか。

しみじみとスゴいと思う。我が娘ながら、こんなにスゴい奴がいるのかなと、真剣に日々ビックリしている。

先日友人と「小さい頃って夢とかあった?」と話していて、大体皆何かしらある。僕はなかった。本当になかった。

何が好きとか考えたこともなく、何をやれば人よりうまくやれるかくらいしか考えてなかった。そうすることでしか、自分の価値はないんだと、日々を過ごしていた。

世の中に、何より親に、評価されやすいように。あるいは過剰に、そういった評価に反発するように、20数年間が経た。

幼い頃の自分に、ういさんっていうお友だちを紹介したいなと思ったりする。こんなに存分に生きている奴がいるよ。生きていいんだよと。

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