海に生きる人びと
『星の航海術をもとめて ホクレア号の33日』ウィル・クセルク(著):加藤晃生(訳)青土社
マガジンハウスの雑誌『Tarzan』の最新号はハワイ特集。なかでも目を引いたのが、航海カヌー、ホクレア号に関する記事だった。
ホクレアとは、言わずと知れたハワイ人のルーツであるポリネシア、タヒチまでの何千キロを、まったくエンジンもGPSも使わずに航海するカヌーのこと。ハワイの人々にとっては、自らの海洋民族としてのルーツや、アイデンティティを懸けたプロジェクトでもあるらしい。記事によると、現在ホクレアは、環太平洋を航海中で、日本にも寄港予定があるとのことだ。
そんな記事を読みながら、2006年に刊行された本書を読んだ。著者のウィル・クセルクはハワイ大学の地質学者で、著者自らホクレアの伴走船に乗り込み、1980年でのホクレアの航海を地理学的、天文学的など科学知識で読み解きながらドキュメントしている。いちばん軸になっているのは、ホクレアの伝統航海を星や天体などを使って位置計測していくウェイファインダー、ナイノア・トンプソン。古代の航海術を知るミクロネシアのマウ・ピアイルックとナイノアの師弟関係を軸に話は進む。
さて、個人的に印象深いのは1978年の航海。
ホクレアは嵐で転覆、助けを呼ぶために自ら時化た海にサーフボードひとつで飛び込み、そのまま帰らぬ人となった伝説のサーファー、エディ・アイカウのところ。「エディなら行く」のフレーズは、ウォーターマンやサーファーの鏡でもある。そうした犠牲をも糧として、悲願のタヒチ航路を目指し、クルーが奮闘していくとことは胸が熱くなる。
マウとナイノアとの師弟関係も読みどころだ。マウは前近代的なものの見方で海を読むマスター、このマウがすごい。波やうねり、渡り鳥、空や雲の出方など自然現象から現在地を読む。その能力と、現代的な知識を武器にその教えを受けるナイノアとの対照が面白いところだ。まるでスターウォーズでヨーダにフォースの教えを乞うルーク・スカイウォーカーみたいだった。
度重なる嵐や、赤道下の無風地帯での停滞など、数々の困難を乗り越えながらクルーが団結、やがて目的地の島影が見えた時のその感動、それぞれのクルーがあのエディ・アイカウの事を想い涙する、そのシーマンシップの美しいことといったら!
陸地で生活している我々にとって、ずっと陸地のない世界とはどういうものなのだろう、簡単には想像できないけれど…。
本書は、そういう意味でも一種の冒険譚とも読めるし、意外にも大勢の人間がミッションに向かって団結していくと言ったビジネス書としても読めるし、南洋における民俗学、海洋学的な読み方もできる良書。
気鋭の冒険家、写真家の石川直樹が解説を書いている。
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