まるで池井戸潤の小説!ユニゾホールディングスが破綻するまで。
こんにちは、KARAKINGです。
今回は、事実は小説より奇なり。2023年4月に民事再生法を申請したユニゾホールディングスの顛末がまるで池井戸潤の小説のようだったので、小説風にまとめてみました。
1.民事再生法の申し立て
2023年4月26日、ある中堅不動産会社が東京地方裁判所に民事再生法を申し立てた。
ユニゾホールディングス(以下ユニゾ)。母体は1959年に設立された旧日本興業銀行系(現みずほフィナンシャルグループ)の常和不動産。東証1部にも上場し、ホテルや不動産などの事業を行っていた。
ピークとなる2019年3月期には売上高561億円、純利益119億円を計上、2020年1月時点の保有物件はビル68物件、計画中を含めホテル27棟を保有し、総資産6500億円程度を有する優良企業だった。
2.敵対的買収
さかのぼること2019年、大手旅行会社のHISがユニゾに対してTOB(敵対的買収)を仕掛ける。
当時1株1,900円弱のユニゾ株を1株3,100円で買い付け、保有比率を45%まで高めようとしたことがきっかけだった。その時HISはユニゾ株4.79%を持つ筆頭株主で、保有割合を45%に高めることを目指し7月11日にTOBを開始した。
しかしユニゾはこれに反発。HIS傘下に入るのを嫌い、ソフトバンクグループ傘下でアメリカの投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループをホワイトナイトとして、1株4,000円でTOBを開始した。
ここで、提示した1株3,100円で買い手がつかなくなったHISはユニゾ株を売却しTOBを撤退することとなった。
その後、米大手投資ファンドのブラックストーンからもTOBを仕掛けられる。
経営権を保持したいユニゾは必死に抵抗し、他のファンドと組んでブラックストーンを撃退しようとしたが、その過程で多額の負債を抱えることなる。2021年には、債務超過に陥り、金融機関からの信用も失った。2022年には、債権者からの返済要求が相次ぎ、資金繰りが困難になる。
ついに2023年4月26日に東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、受理された。負債総額は1,200億円を超え、2023年で最大の破綻となる。
金融関係の債権者は45行(社)で債権額は649億211万円であることが報じられている。
ユニゾの債権者の中で主な金融機関は、北國銀行、神奈川県信用農業協同組合連合会(県信連、JAバンク)、西日本シティ銀行など。
これにより赤字に転落する地銀が現れるのではないかと危惧され、まだまだ金融市場には混乱が続いてる。
(2023年4月28日時点、債権者と負債金額:引用 Yahoo!ニュース)
3.老舗不動産会社
ユニゾホールディングスは日本興業銀行の不動産管理会社として1959年に設立された。
2009年に東証第二部に上場、2011年には東証第一部に指定替えをしている中堅の不動産会社である。
元々興銀系オフィスビルの管理が中心であったが、2010年に元みずほフィナンシャルグループ副社長の小崎哲資氏が代表取締役社長につくと拡大路線に舵を切り、積極的なオフィスビルの取得・再開発、ホテルの新規建設を行い、売上高は2010年137億円から2019年には561億円とわずか9年で4倍に拡大した。
ユニゾの業績を拡大させ、中興の祖と呼ばれた小崎哲資氏とはどんな人物なのだろうか。
4.中興の祖
小崎哲資氏は東京大学法学部を卒業し、日本興業銀行(のちに第一勧業銀行、富士銀行と合併し、みずほフィナンシャルグループとなる)に入行した。当時、日本興業銀行には東大でもトップクラスの人材でなければ入行ができないと言われており、小崎氏はまさにエリート中のエリートである。
2002年みずほホールディングスは不良債権処理のため2兆円もの巨額の赤字に直面していた。
小崎氏は、みずほHDの事業再構築推進チーム委員長として、同社を救うため独自の手法を考案した。それが「二重持株会社方式」である。みずほホールディングスの親会社としてみずほフィナンシャルグループを設立し、傘下の黒字企業と赤字企業を2つの持株会社で振り分けるものであった。この手法によって、みずほHDは窮地を脱することができたのである。
同時に、小崎氏はこの窮地を脱するため、みずほの取引先企業3500社を引受先とする1兆円増資のスキームを実行した。これはみずほの取引先企業にみずほの社債を引き受けてもらうという銀行業界では前代未聞の荒業である。
こうして、小崎氏はその剛腕によって2度にわたってみずほを救ったのである。
小崎氏はその後も辣腕を発揮。2007年にみずほ銀行副頭取、2009年には社長に昇格した塚本隆氏の後任として、みずほフィナンシャルグループ取締役副社長に就任した。
順調に出世街道を駆け上がる小崎氏、次期グループ社長に大手を掛けたが、金融庁の意向により当時みずほフィナンシャルグループを率いてきた前田晃伸社長が辞任することになった。
前田派であった小崎氏は出世の道を断たれ関連会社であるユニゾに追いやられた。
小崎氏を阻んだのは、同じく東京大学から日本興業銀行に同期入社した佐藤康博元みずほフィナンシャルグループ社長である。
2010年、小崎氏はユニゾの代表取締役社長に就任する。
みずほの窮地を救い、日本が誇るメガバンクのトップまであと一歩のところで年商100億程の関連会社に追放されたことは、小崎氏にとっては耐えがたい屈辱だったに違いない。
5.繁栄と敵対的買収
ユニゾは小崎氏のもと拡大路線に舵を切り、それまでは興銀系オフィスビルの管理が中心の地味な不動産管理会社の業績を急拡大させた。
積極的な不動産の取得・再開発、新規ホテルを開業させ、海外でも積極的な不動産の取得を行っていた。
その間に増資を繰り返し、みずほ系列会社の出資比率を下げ「脱みずほ」を進めていく。その結果、みずほ銀行との関係は険悪なものになっていく。
増資を繰り返した結果、ユニゾの株価は希薄化し割安になっていく一方、保有資産は膨れ上がっていた。含み益を含んだPBRが0.25倍(株価が保有資産の4分の1)という割安状態となっていた。
ここに目を付けたのがHISである。HISとしては当時ホテル事業を強化しており、「2023年までにホテルを100軒とし、日本のトップ10に入る」という方針のもと、M&Aや提携先を模索していたHISにとって、25軒のホテルを保有しながら割安なまま放置されていたユニゾは格好のターゲットであった。
※HISにユニゾを紹介したのはみずほ銀行との説もある。
当初HISはユニゾに対して業務提携を申し入れたらしいが、ユニゾはこれを拒否。
業務提携を拒まれたHISは市場でユニゾ株を買い集め、5%弱を保有する筆頭株主に浮上しTOBを行うことを発表した。
ユニゾはHISの傘下に入ることを拒み徹底抗戦の構えを見せる。
そこでソフトバンク傘下の米投資ファンド「フォートレス・インベストメントグループ」をたのみ、HISをこえる1株4000円でTOBをおこない、HISにTOBを断念させることに成功する。
6.王国の崩壊
しかし、HISがTOBを断念した直後、ユニゾはフォートレスに対して反意し態度を覆す。
ユニゾはフォートレスの傘下で事業を再編することを良しとせず、あくまでユニゾの自治を望んだ。
その隙に米投資会社のブラックストーングループが1株5000円でTOBを行う意向を発表、しかし、またしてもユニゾは「現在の経営を維持」することに拘り、ブラックストーンと戦うことを決意。
新たなホワイトナイトを探すユニゾ。そこに米ローン・スターより「従業員による企業買収(EBO)」というスキームを提案された。
従業員が出資して設立させた持株会社にローン・スターが資金を提供し、新会社にユニゾ株を買い取らせるというものである。
ユニゾの自治を守ることができるこの提案に小崎氏は乗ってしまう。
※それまで経営陣による株式の買収(MBO)は行われていたが、従業員による企業買収(EBO)は前例が無く、日本発のEBO案件として世間の注目を浴びた。
小崎氏は、自分が築き上げた会社=王国が失われる屈辱を許せなかった。
ブラックストーンとローン・スターによるTOB合戦で更に株価は吊り上げられ、最終的にユニゾは1株6,000円ですべての株式を買取り、上場廃止となった。
自治権は守られたかのように見えた。
このとき、株式を購入するためにローン・スターからの借受けた資金は2060億円。
しかし、ローン・スターには180日後の返済と法外な配当金の支払いが合意されていた。
ユニゾはローン・スターに対して借入金と配当金531億円の合計2692億円を支払う必要に迫られる。
この資金を用立てるために、ユニゾはそれまでの事業で蓄えてきた現金だけでなく、収益不動産やホテルの大半を売却してしまった。
その結果、ユニゾは主要な資産を売却しキャッシュを稼ぐ能力を失ってしまう。
残ったのは収益性の低い不動産と、約1200億円の債務である。
キャッシュを稼ぐ能力を失い売上高は120億円に激減、利益も稼ぐことができなくなったユニゾにとって、1,200億円の債務は重く、2023年4月民事再生法を申請するに至った。
7.戦の後
わずか2年のマネーゲームの結果は以下の通りである。
・金利と配当金をむしり取ったローン・スターは、約600億円の利益を上げて早々に立ち去った。
・TOB合戦で株価を吊り上げ、最終的には1株6,000円でユニゾに買い取らせたファンド(フォートレス、ブラックストーン)は、保有した全株式を売り抜けた。
・初めにTOBを仕掛けたHISは、ホテル事業を手にすることができなかったが、1株3100円で買って4100円で売却し29億円の利益を得た。
・過去のメインバンクだったみずほはついに動くことは無かった。
・1,200億円の債権者の中には、多くの地銀が並んでいる。
1人の男が守りたかったものは何だったのだろう。
自分の王国を守るためにファンドの甘言に乗ってしまった小崎氏。
EBOが成立した後は、小崎氏をはじめ当時の取締役は全員辞任したため、新経営陣はローン・スターへの借入金返済のための資産売却やリストラを押し付けられた。
小崎氏の2018年の役員報酬は2億円を超えていた。
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