『からこといのち通信 №7』新年1月号20201212発行

『からこといのち通信 №7』新年1月号(人間と演劇研究所 瀬戸嶋 充 ばん)20201212発行


新年1月、冬の琵琶湖合宿(1/9~11)では賢治童話『よだかの星』を読みます。

私の心(=からだ)の内部に、『よだかの星』に触れてみたいという疼きがあり、その開示のために賢治さんの物語の世界に触れてみたい。皆で合宿の練習場を「よだか」の世界へと塗り替え、「よだか」として、そこに踏み込んで飛んで行きたい。そんな思いをもって、合宿のテキストを『よだかの星』に決定しました。

30年前のことになりますが、K市の精神医療リハビリセンターで、朗読劇『よだかの星』を上演しました。ふだんは院内の談話室として利用されている20畳ほどのロビー。デイケア演劇同好会の語り手5人が、手作りの衣装を纏(まと)い、照明に照らされて壁を背にして立ちました。観客=センターの仲間たちは床に絨毯を敷き、ギッシリ場内を埋めています。

舞台は「よだか」の紹介から始まります。「よだかは、実にみにくい鳥です。顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。 足は、まるでよぼよぼで、一間とも歩けません。 ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合でした。 」

よだか役のG君は緊張しながらも、客席に向かって真っ直ぐに視線を向けています。照明の光の輪の中で茶色の衣装を着たG君は、腕を大きく広げて上下に羽ばたいている。照明をうけて舞台の闇に浮かぶその姿は、地上の山やけの火に照らし出されながら、羽をいっぱいに広げて星あかりの中をとびめぐる「よだか」でした。

そうなのです。「よだか」は舞台にやってきていたのです!

あの頃は(?)、、、あの頃も(!)、無鉄砲で稚拙な演技指導で、私は何が何やら思い返すこともなく上演を終えてしまっていました。上演が成功であったのかそうではなかったのかも、私には判断が付かず、あの舞台の光景だけを私自身の心に残したまま、今に至ってしまいました。

今回『よだかの星』を読み返していてあの頃のことを思い出したのですが、当時、よだかの天翔ける姿に出会えたことが成功だったのですね!そしてその成立は、G君が物語りへ向かう真剣さ豊さ、賢治作品の言葉の力、そして舞台を支える仲間たちの共感力があってのこと。

正直言って私は何もしていなかった。からだをほぐしてよく声が出るよう手助けしたのと、舞台進行の交通整理くらい。彼ら登場メンバーのために特別何をしたわけでもないので、私はその出来の良し悪しを反省することもできない。

舞台に『よだかの星』の世界を呼び起こしたのは、上演メンバーの一人ひとりと施設の仲間たちのいのちのちからだったのです。

合宿は二泊三日と、短い時間の中での本読みとなりますが、ぜひ『よだかの星』に出会ってみたい。その喜びをご一緒してください。合宿(新年 1/9~11)へのご参加をお待ちしています。よろしくお願いします。

(瀬戸嶋 記)

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【1】 からだ( 身体)~からだ( 身体)へと伝わる「ことば」
【2】 風周りの交換ノート③(「声」をみるときの話 )
【3】 滋賀琵琶湖冬のWS合宿 1/9~11 参加募集
【4】 通常レッスンのご案内
【5】 あとがき
【6】 note バックナンバー

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【1】 からだ( 身体)~からだ( 身体)へと伝わる「ことば」

「話すこと」には、脳を介して言葉の意味をやり取りすると考える場合「A」と、身体から身体へと直接に響きを伝え、存在の内側より感情や生理的反応を促す行為と考える場合「B」が在ります。

話し言葉「A」は、ふだんの会話で利用されています。言葉の意味を届けるために音声の鮮明さと説明の巧みさを求められます。文章化された言葉を、他者の脳内へと正確に心地よく届ける。聞く側はその受け取った情報(言葉=文章=記号)を、自分の脳(頭・頭脳)で再生して理解します。

後者「B」の場合、話し言葉(朗読・語り)は聞く者の意識の奥底にある無意識の領域(からだ)に直接に触れて、感動の訪れを促します。その時、話者は聞き手と共に身体内の感情とイメージを体験します。話者と共に聴き手の心の奥底に働きかける力は、文章(物語り作品)の音声化によって生まれる響きとリズム(音楽)、全身的な息遣い、音韻の持つイメージ(感情・気分・色合い)等々からやってきます。

作家によって磨き上げられ、繰り返し工夫された言葉(文脈・文章)は、その音素となる一音一音(いちおんいちおん)の響き合いによって、物語世界を話し手自身の内側から眼前に呼び起こし展開させるのです。物語を語るとは、言葉自体の内包する音楽性と意味作用とが分離されることなく語られる、極上の音楽=動きと声・言葉の統合されたイメージが奏されることなります。

日本語では、あいうえお五十一音の一音一音が他の音とは異なる特徴(表現単位)を持ちます。例えば「あ」の音は聞く人の気持ちを明るくする。「か」は硬く鋭く聞く人を打つ。日本語では音自体の特徴が響き出し、聞き手の様々な気分(こころ)やイメージを眼前に呼び覚まします。言葉の意味よりも、言葉の響き=音楽性がメッセージと一体になって呼び覚まされるのです。

その意味からみると現代の歌唱や朗読は、曲(メロディ)やBGMが、歌詞に描かれた意味と感情を説明するための装飾になってしまっていて、その分離は統合されることがありません。

真に言葉と音楽(性)の統合は、子ども達の呼びかけ言葉「○○ちゃん~♪遊ぼ~ぉ♪♪」に見るのみになっているようです。声や言葉のリズムと息遣い、声の一音一音が発する色合い。或いは子供の呼びかけ言葉を扱った文章は、宮沢賢治作品の他にはめったにお目にかかることができないようです。これが賢治作品を声に出して読むことの私の楽しみになっています。

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【2】 風周りの交換ノート ③(「声」をみるときの話 )

《 ばんじ 》008
ちょっと間が空いてしまいましたが、まあ急ぐことでもなさそう。いま通しでMessengerを読み返したら案外面白いです。文章が、ことばが跳ねてますね。うたを歌うとき、16ビートがさっぱり分からず苦労していますが、ノートのやり取りは、心の弾みがそのまま出るみたいですね。もちろん相手が良いことは絶対です(笑)

仮面の出来事を話していて、私もレッスンのことを思いました。とくに「声」のレッスン。

声が良く出ているときは、声を出す人のからだが場の空気に融けてしまい、外界と区別をする輪郭が消えて、透明な空気のみが吹き上がっているような感じになる。

私が隣に立ってみると、無色透明な樹液の流れが吹き上げるような感じの中に共に入っていける。この流れを妨げるのが、当人の無自覚な姿勢の緊張で、相手のからだと一つ(一如・無分別)になってしまった私は、その緊張を外そうと一生懸命になる。

これが「こえ」のレッスンです。

風が吹くことは、いのちの働きの前提ですね。誰もが「からだ」を吹き抜ける風に支えられている。赤ん坊が初めて立った時って天地の風が吹いていますよね。

大人になるにつれて、吹く風を閉じ込めるかのように、様々な仮面(自我・ペルソナ)で、自分の面っ皮を蔽っていく。それは自分の魂の個性というより、親やらなにやら、外部との関係で身に纏ったものだと思います。友人で施設の管理職(施設長)をやっている人がいますが、その能力は母親譲りが見え見えでした。本人は母親へ大変否定的な気持ちを持っていましたが、社会的な有能な力は大きなお寺の管理をしていたそのお母さんから受け継いだもので、彼が持っていた仮面の一つでしょう。世渡りのためにはそれに相応しい仮面が必要なのでしょう。

私が「こえ」に求めるのは、そのような自分に属さない借り物の自分ではなく、その人ならではの個性としての声に出会いたいのです。おそらく様々な仮面を、統合しバランスよく使いこなす中心には、本当の「こえ」、本当の自分らしさ、自然に連なり流れ合う自己が必要なのでしょう。

自己を、超えて世界と流れ合い響き合うそんな声に出会いたいし、自分でもそのような声を語れるようになりたいのです。きっとこれも螺旋の無限循環、同じところを回っているようで、横から見ていると座標が変わり続けている、そんな探求の継続(未完の完成)しかないのかも知れませんが。

様々な表情の仮面を着けることで、先ずは日常的に固定・固化してしまった自分の日常という仮面に揺さぶりをかける。表情仮面(めん)の他に、ニュートラルな仮面も使いました。こちらは私が私に成る以前の自分。炎になったり風になったり、自在・自由に私という存在(観念)を越えて行きます。そして最後にクラウンの赤鼻をつけて、世界でただ一人、最も自分らしい自分を演ずるのです。私のクラウンは見つかっていません。課題かな?
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今日書いた分です。受け取るのが重いかな?大変ならば遠慮なく言ってください。

《 あまに 》009
受け取るのがかるいとかかんたんとかではないですが、重い(?)の上等、めっちゃウエルカムです。
10/12からYちゃんの保育園通いもはじまるし、自分のために使える時間がふえる!その自分のための時間のなかの、ワクワクプランのひとつです。このバンジさんとの交換日記は!
というか、じつは私デートで「インタビューみたいなのさせてほしい」と告白しようかと思ってたぐらいなんです。だからばんじさんから交換日記したいと言ってもらえてとてもうれしかったです。

《 あまに 》010「"透明"ってなんだろう」
すこぶるうれしいです。光栄のかぎり!
わたしもここまでの交換ノート読み返してみました。去年の合宿後のばんじさんとのやりとりも、えらいたのしかったなぁと思い出される。

へええ~、ばんじの「声」をみるときのビジョンてきいたことなかったんでとても新鮮です。前からとても聞いてみたかったところ。すごくおもしろい!
「声を出す人のからだが場の空気に融けてしまい、外界と区別をする輪郭が消えて、透明な空気のみが吹き上がっているような感じ」というのは、ばんじの言ってた「いのちの風」そのものになることと同じなのかな。

「相手のからだと一つ(一如・無分別)」は、相手の身体が緊張の塊でも成り立つのかしら。そうなるとばんじはけっこうしんどい・・けど緊張を外せたときの開放感もひとしお・・なんですかね。

ばんじは何を手がかりに、借りものの「こえ」と本当の「こえ」を聞き分けるんですか?
「透明な空気」や「無色透明な樹液の流れ」に共通してあらわれる" 透明 "という言葉、ここがポイントのような。
その透明感が、「自己を、超えて世界と流れ合い響き合う」度合いを決定するのでしょうか。

ばんじが螺旋の無限循環のなかで出会いたい「こえ=クラウン」。ばんじは今どれくらい透明なんだろう。
私はどれくらい透明なんだろうな・・・。その程度はわからないけど透明になれる時間とか場とかチカラはすごくほしいなーと思います。小学校にあがったくらいからずっと笑

(次回、2月号に続きます)

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【3】 滋賀琵琶湖冬のWS合宿 1/9~11 参加募集中。

新年 1/9~11 恒例になっています、琵琶湖和邇浜青年会館でWS合宿を開催します。

1月9日(土)JR湖西線和邇駅13時集合、1月11日(月・祝)和邇駅17時解散 のスケジュールです。

オンライン準備会を 12/12・12/19・12/26 に開催します。

準備会・参加の申し込み等、リンクを覧ください。
http://karadazerohonpo.blog11.fc2.com/blog-entry-375.html

Facebook をご利用の方は、下記のイベント頁でもご案内しています。
https://www.facebook.com/events/3928858320472111

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【4】 通常レッスンのご案内

● オンライン・レッスン『野口体操を楽しむ』のご案内はホームページ、
https://ningen-engeki.jimdo.com/%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%95%99%E5%AE%A4/

● 新宿ワンディWS(通常リアルレッスン)の開催は11/22(日)、11/29(日)、12/13(日)、12/27(日)、新年1/24(日)の開催です。
https://ningen-engeki.jimdo.com/ で詳細をご覧ください。

● オンライン・プライベート・セッション開始
http://karadazerohonpo.blog11.fc2.com/blog-entry-370.html

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【5】 あとがき

ここ5年ほど恒例になっている冬の琵琶湖合宿、私自身楽しみでならないようです。
合宿所は琵琶湖畔にある昭和の雰囲気を残すユースホステルです。湖水まで15メートル、潮騒の音に身を浸されて日を過ごします。
私たちのからだは水(水分・体液)が60~80%くらい。琵琶湖の湖水の流れ動きと私たちの体液が共鳴するのでしょう。合宿所に着くと、みるみるうちにからだのこわばりが解けていきます。極上のマッサージを受けるよう。
京都駅からJR湖西線で30分。夏には海水浴客で賑わう砂浜ですが、冬は観光客の訪れることの無い、鄙びた湖岸の雰囲気を味わえます。トンビが澄んだ虚空に輪を描いてピーヒョロロと鳴き、天の高さと湖水の広がりを伝えてくれます。
こんなことを書いている内に、こころは琵琶湖の畔に翔び、息が深く溢れてきました。
新年 1/9~11 琵琶湖 どうぞご参加ください。

混迷の一年ではありましたが、なにはともあれ、まずは新たに良い年をお迎えください。一歩一歩、眼の前に開ける道を、大地に足をつけ天をながめ、ゆっくりゆっくり歩いていきましょう。

瀬戸嶋 充 ばん

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【6】 note バックナンバー
当通信のバックナンバーをご覧になりたい方は、ばん/note
https://note.com/kara_koto_inochi/m/mdc4d18c059db
をご覧ください。

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● 私、瀬戸嶋 並びに 人間と演劇研究所『からだとことばといのちのレッスン教室』の 活動と情報は、ホームページで告知しています。
レッスンへ参加頂く際は、ホームページをご確認ください。
https://ningen-engeki.jimdo.com/

● 問合せ・申し込みは、メール karadazerohonpo@gmail.com 又は 電話 090-9019-7547 へご連絡ください。

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     人間と演劇研究所代表 瀬戸嶋 充 ばん     

『からこといのち通信 №7』新年 1月号 20201212発行

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