食品の色あれこれ -FCF, Colouring of Food-
スーパーやコンビニに行くと、多種多様な商品が陳列されており、まさしく色とりどりです。
パッケージされた食品となると、匂いも味も確かめようがないので視覚情報が重要となります。なるほど、どの食品も食欲をそそるような見た目をしています。
中には駄菓子にあるさくら大根のように本当に食べていいのかと疑ってしまうような色合いのものもあります。
多くの食品の成分表示をみると記載されている着色料、赤色何号だとか青色何号だとか、その文字だけをみると逆に食欲を減衰させるようなケミカルな名称をしているものが添加されています。
しかし、何気なく接種しているそれらの食用色素について、私達はどれほどのことを知っているでしょうか。
今日は、食用色素に関するお話をしていこうと思います。
食品添加物と法規
食品添加物について定義されている法律は、食品衛生法のうち「第二章 食品及び添加物」に記載があります。
食品添加物は、登録するにあたってその安全性を確保するために食品安全委員会の意見を聞き、厚生労働省が登録するものになります。
日本国内における食品衛生に関する全国的な取締りは、「アニリン其他鉱属 製ノ絵具染料ヲ以テ飲食物ニ着色スルモノ取締方」(明治11年4月18日乙第35号)によって、内閣卿から通達されたものが最初になります。
その後、食品衛生に関して、「飲食物 其ノ他ノ物品取締ニ関スル法律」(明治33年2月23日 法律第15号)により全国的かつ一般的な法律が定められました。
この法律をベースに「食品衛生法」(昭和 22 年 12 月24日 法律第233号)が制定されたことによって、今日の食品産業が管理されています。
食品添加物については、先程の図で言うところの、厚生労働省が安全性をチェックするための機関が「薬事・食品衛生委員会(当時、食品衛生調査会)」であり、厚生大臣の諮問により応じて調査が行われました。
その審議をもとに作成されたのが、昭和35年3月15日「第一版食品添加物公定書」です。
さて、当時登録された成分は198品目ありましたが、その中には食用赤色1号~5号、赤色101号~106号他、複数色の29種類が登録されました。
食用色素の名称
見出しにしておきながら申し訳ありませんが、何故この色素成分だけが番号表記なのかは調べた限りでは情報がありませんでした。
おそらくですが、成分名を登録する前に開発した色素を申請したか、登録にあたっての便宜上の名称として審査に通されたかだと思われます。
追って記載しますが、これら番号表記の食用色素は合成化合物であり、食用添加物公定書のなかでも番号表記のものは色素以外のものはありませんでした。
ご存知の有識者の方がいらっしゃいましたら、情報をいただければ幸いです。
タール色素
先程から番号で呼称している成分ですが、食品だけでなく化粧品や衣類などの工業製品にも使用されています。
これらの色素、総称して「タール色素」といいます。
タールという名前から分かる通り、石炭から製造されるオイルであるコールタールを原料とします。
コールタールの主成分は芳香族化合物(ベンゼン環を有する物質)であるナフタレンやベンゼン、フェノールとなります。特に、塩化ベンゾジアゾニウムとフェノール類をカップリングさせたアゾ染料が最も合成染料として利用されています。
現在では、石油を精製するときに得られるナフサ(粗製ガソリン)が原料に使用されています。
タール色素は天然色素に比べ熱などの加工に強く退色しにくいことや、安価であることから幅広く使用されていますが、食品で使用されるものは限られています。
現在、食用添加物として登録されているものは以下の12種類になります。
赤色2, 3, 40, 102, 104, 105, 106号
青色1, 2号
黄色4, 5号
緑色3号
番号が飛び飛びになっているのは、登録の時点で落ちたものや後に有害性が認められたり利用が見られないものが登録を抹消された結果によります。
では、代表的な化合物について紹介していきましょう。
筆者はここからがワクワクしてきます。
私だけですか?そうですか。
赤色2, 40, 102号(スルホン酸系)
赤色のタール色素のうち、3種類を"便宜上"スルホン酸系と呼ばせていただきます。何故かと言うと、すべての赤色がこの類似化合物ではないので区別するためになります(赤色3号は全く違う構造)。
左から順に、赤色2, 40, 102号になります。アゾ色素の名前にもあるアゾ基(-N=N-結合)が架橋となり、ナフタレンがスルホ基に修飾された2つのパーツが結合した物質となっています。
この構造で重要になってくるのが、そのスルホ基です。スルホ基(-SO3H)はスルホン酸が置換した官能基になります。
スルホ基の特徴として、強酸性を示し酸素イオンが高い親水性を示すことから染料だけでなく界面活性剤としても利用されます。また、羊毛やナイロンなどのアミド結合中のN原子と結合するため染色剤として優れているとされています。
青色2, 3号
青色は2号と3号の2種類が登録されており、左が青色2号になります。いかにも合成化合物っぽくてむずむずしますね。
先ほども述べましたが、スルホン酸は色素としての性能を上げることができることからここでも官能基が修飾されています。
右の下はいわゆるインディゴカラーの成分ですが、これを硫酸で処理することでスルホン化され上のインジゴカルミンになります。
インディゴ自体は疎水性であり、使用にあたっては水に溶かすことができません。ただし、インディゴの前駆体であるインディカンは水溶性であることから、この物質が利用されてきました。
日本では藍染をするにあたりアルカリ環境下で嫌気性菌に発酵させることでインディカンを酸化縮合させインディゴを生産していたそうで、これを「すくも染め」というそうです。
ちなみにカルボニル基とアミノ基の間に点線がありますが、これは間のプロトンが光励起により荷電分離が生じ、分子内水素結合が形成されている状態を指します。
詳しいことを知りたい方は、また調べてもらえればいいと思います。
黄色4, 5号
黄色で食用添加物として登録されているのは4号と5号になります。これらも構造を見てわかるように、アゾ系のタール色素になります。
左の黄色4号は、多量のビタミンC存在下では還元されてしまう特性はありますが、熱・光・酸塩基に強いことから食品には最も多様に使用されています。
構造としての特徴は、右の黄色5号に対しピラゾールがスルホン化された芳香環の間に挟まっている点にあります。おそらく、スルホン化されたアゾ基を有する芳香環2つが縮合する過程で形成されるのだと思います。
右の黄色5号はサンセットイエローとなんともかっこいい名前着いていますが、熱や光に非常に強く安定している性質から菓子や清涼飲料水に広く用いられています。
緑色3号
緑色で登録されているの3号のみになります。
ところで、どこかで見たことがあるような構造をしています。
なんと、先述の青色1号の構造とそっくりです。そっくりというか、水酸基1つの違いしかありません。
可視光の波長で言えば、青は460~500nmで緑は500~570nmと近傍であるであることから、水酸基一つで吸収帯が変化するのでしょうか。
たった一箇所の構造の違いで発色がぜんぜん異なるというのは、非常に面白い現象ですね。
なお、緑3号は細胞の蛍光発色剤としてよく利用されます。
健康に関する規制
2007年、英国食品基準庁は、タール色素と合成保存料の安息香酸ナトリウムを同時に摂取した場合の健康被害についての関係を示唆する結果が得られた為、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の兆候がみられる子供はこの合成着色料を避けたほうがいいとし、メーカーが自主規制するよう勧告しました。
この勧告の調査研究に関しては評価や手法が疑問視されており根拠がないのではという意見がありますが、現在欧州では「影響するかも知れない」という警告表示をするという形になったそうです。
日本におきましては、登録にあたって非常に厳格な基準で試験されてパスしているものですが、その成分の新たな使用にあたっては食品衛生法の第25条による検査を受けます。
タール色素の検査結果については厚生労働省のHPにて公表されています。
食品衛生法第25条第1項に基づくタール色素の検査結果 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
番外編:コチニール色素
食用色素として、天然由来の物質でコチニール色素というものがあります。これは、ハムやソーセージ、かまぼこなどの着色に利用されています。
この色素、天然とはいいますが、その原料に少しクセがあります。
それは、カイガラムシです。
コチニール色素は、コチニールカイガラムシのメスや卵を乾燥させ得ることができる天然の色素で、メキシコでは古来より染料として利用されてきました。
このコチニール色素はカーマインとして絵の具などにも利用されましたが、ルネサンス期には毛織物の高級染料として取引されていました。
コンキスタドールにより中南米が征服された際、このコチニールカイガラムシをサボテンを宿主として大量に養殖して欧州に売りつけていたとか。
色素であるカルミンは複雑な構造しているようではありますが、実際は自然界でよく見られるアントラキノン構造のカルミン酸がアルミニウム塩によりレーキ化されたものであり、これにより不溶化し染料として使うことができるようになります。
安全性に関しては問題ないとされていますが、アレルギー反応を呈する場合があることから使用にあたっては注意が必要であるとされています。
Conclusion
いかがだったでしょうか。
食品添加物である色素について紹介してきましたが、この記事を読んでいただいて何かしらイメージが変わったでしょうか。逆に不可解なものとして不安になってしまいましたか?
赤色の食品添加物として、古来より中国や台湾、沖縄で利用されてきたものとして、ベニコウジ色素があります。
1976年に赤色2号の発がん性が報告されたことにより、一時的にタール色素のイメージが悪化すると同時に、天然色素のイメージが向上したこととや1980年代に紅麹菌の液体培養による量産技術が確立したことにより、ベニコウジ色素の利用が増加した背景があります。
しかし実際のところ、近年の報道にもある通り紅麹製品で健康被害が報告されています。
食品添加物も、天然由来であれば必ずしも良いというわけでもなく、また、化学合成されたものであるから健康に悪いということも無いと思います。
先にも紹介したコチニール色素も、天然由来のものでもアレルギー反応を引き起こすこともあります。
私達の食卓に届くまで、複雑な調査と研究が行われて安全性が調査されているものであるので、脊髄反射的に嫌厭しないでいただければ幸いです。
ご清聴ありがとうございました。
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