「遺跡」となる途中の廃墟を見た話
前置き
とりあえず、昨日見て感じたことの記憶を、
記録として残しておこうと思う。
ちゃんとした文章にはなってないかもやけど。
長崎県の野崎島集落跡を取材で訪れた。
集落跡は2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産のひとつとして世界遺産となった。
港を降りた瞬間、目の前に広がるのは、数々の廃墟。数十年前まで人が暮らしていた野崎集落の廃村だ。
この地域の特徴として、家屋の周囲には防風用(たぶん)の石垣が築かれている。どの家も立派な石垣を備えている。
だがその背後にある、守られるべき家屋は、住人を失って数十年の月日が経ち、どれも崩れ落ちている。
残っているのは資料館として保全されている元神官の屋敷1棟のみ。
あとは、崩れるままに放置されている。
柱が折れ、壁は崩れ、これが元は家屋だったと分かるものは少ない。
元家屋だったところには、なぜか大量のビール瓶(一升瓶?)と思われるものが捨てられているところもある。おそらく廃墟となったあとにここに捨てられたのだろう。
元は神社だった建造物もある。
石の鳥居と石段が残っているその先を上ると、崩れた木造の神殿と、当時人々に拝まれていたであろう石像がいくつか散らばっている。
港の近くの崩れた建屋の隣に1本の石柱があった。よく見るとそれは、元は鳥居だった石柱だった。遠目には鳥居の右手に石像のようなものもある。
あの向こうに神社があったんやな。
なぜかそこに行ってみたくなった。
石柱の下には石でできた扁額が落ちていて「恵比須神社」と刻んであった。落ちたというより立て掛けられた感じ。
えべっさんがいてはったのかと思い、先ほど遠くから見えた石像がそうかと思ったのだが、どうやら違ったようだ。よくわからなかったが弁財天に見えた。戻ろうかと思ってふと気づいた。先ほどの石像があったのは鳥居の右手側。本尊なり神像なりがその位置にあるのはおかしい。鳥居の真正面にあるべきではと思ってその方向を見ると祠状の小石に囲まれた場所に、えべっさんの小さな石像が鎮座していた。
もう何十年も人に拝まれていない、風雨にさらされたえべっさん。でもまだきれいにその形は保たれていた。住民が去った時に、もう魂は抜かれているのかもしれないけど、その姿をみて手を合わせたくなった。写真も撮らせてもらった。あとでその写真を見ると、えべっさんの満面の笑みが写っていた。たぶんもう誰にも拝まれることはないのに。ワシが最後の参拝者かもしれないのに。
この島で人の手で守られているものは少ない。
ほとんどが風化して、有機物は朽ちていく。
鉄で作られたものたちはやがて錆びて形を失う。
このえべっさんは、人の手で造られたものではあるけど、それら廃棄されたものの中では比較的長く残っていくだろうと思った。
しかも満面の笑顔をたたえたまま。
野崎集落から一山超えると、そこは世界遺産登録地である、野首集落跡。
ここにある建物は旧野首教会と小中学校跡。教会は遺跡として保存され、小中学校跡は宿泊施設として再利用されている。
それ以外に建物はなく、周囲にあるのは段々畑の跡。開拓され山肌の斜面に石垣が築かれているが、そこで栽培されていただろう植物は今は何もない。時折近くまで野生のシカがやって来て草を食んでいる。
建物だったところには朽ちかけた柱もいくつか見えるが、野崎集落ほどではなく住居の痕跡は少ない。おそらく世界遺産地域としてきれいに除去されたのだろう。
その先にも世界遺産を構成する集落があるのだが、時間の都合もあって足を延ばせなかった。
この島を日訪れた訪問者はワシひとり。
あとは建物の管理を務める人が2人。
元は数百人が暮らしていた、広々とした廃墟の島に、たった3人。
まだ生々しく人の痕跡が残るこの廃村を見て思った。
ここは「遺跡」になる手前の廃墟だ。
何百年何千年経って、ここが世界遺産だったことも忘れられた時代になって、これらの廃墟も土で埋まって、島自体も忘れられた存在になったころ、誰かがこの地を再び発掘調査して、この集落の遺跡を見つけるかもしれない。段々畑の石垣や教会の跡も見つけられるだろう。
あのえべっさんはどうだろう?
何千年経っても、あの満面の笑みで数千年後の未来人たちにまた微笑みかけることがあるかもしれない。
我々が数千年前の縄文時代の土偶を発掘して、かわいいと思ったように、数千年後の人たちもあのえべっさんを見てかわいいと思うかもしれない。
そうなると、なんか嬉しいな、と思った。
語彙力貧困すぎるけど(笑)
今はただの廃村。
けど数千年を経た後には「遺跡」。
そう思ったときに「ここ、好きやわ」と感じた。
これだけ人工物がある中で、人工的な音が一切聞こえてこない不思議な島。
機会があるなら、また来てみたい。
<追記>
えべっさん、結構危険な場所にあるので、見に行くことは勧められない。
そのうち、立ち入り禁止になるかもしれない。