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なんてね。
30kmをぶっ続けで歩いたり、異国の地を一日で600kmバイクで走ったり、そうじゃないと体力枯れない。
体力枯れないから、寝られない。東京の、狭くて直線と直角だけで囲まれた星空の中じゃ、俺は休まらない。ずっと、夜更かししている。
24時間のうち7時間寝たとして、たった17時間なんかで眠くなれない。
そして俺は冬眠し損なった熊みたいに、のろのろと包囲磁石の効かない森を練り歩く。意識の中でさまよいだして、現実はすこしとろみがかっている。塩コショウなんか振ったら美味しいかも。
仕方なくてふらつく深夜、真昼間の熱がまだ残るアスファルトの上に長座すると、膝の裏なんかがかゆい。路傍の街灯に照らされてる俺の靴、だいぶ履き潰してるしちょっとボロい。真面目に生きてることの証左だね。
ロングの金マルを一本取り出して、ジッポーに火をつけようとするけど火がつかない。またオイル切れてるじゃん。すぐ燃料切れしてるなんて、なんか愛おしいな。
そして仕方なくカバンの底からライターを取り出す。ジッポーに火がつかなくてカバンを漁ってるなんて、ほんとみっともないと思う。この時間、人生で一番しょーもないよなあ、なんて、でも、ちょっと馬鹿っぽいくらいが生きやすいかも。
歯磨きするのだるいから、何にも食べずに生きたいなんて傲慢だけど、俺らはいつだってそうやって生きてるし。そうやってひもじくなって餓死していった人山ほど見てきたし。まあ、これは比喩だけど。
本当のことを比喩ばかりで彩っていたら、いつかこの世の全部が比喩になったりしないかな、なんて、夢見がちな少年の妄想。
俺は「なんて」って何回書いてる? 口癖って取れないな。寝癖直しが口癖にも使えたらいいのに。
この世の全部が比喩って、そう思えたらラッキーだよな。俺は穴持たずの熊で、現実は塩とコショウで美味しくなって、膝の裏はかゆくて、ジッポーはつかなくて、何も食べない。そんな世界だったらいいのに。いいのに、なんて言ってられたらいいのに。そうしたらきみは人間じゃなくって、エミューにでもなって、あるいはカンガルーにでもなって、健気なままでいてほしい。健気なきみが変わらないでほしい。なんてね。